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北斎-ヨーロッパを魅了した江戸の絵師-(前期)

【見学日】2007年12月27日(水)

【場 所】江戸東京博物館

 
 葛飾北斎について、すべてを語ることは不可能である。海外で最もよく名前を知られた日本人、最も多くの外国人に影響を与えた日本人であることは間違いない。アメリカの某雑誌が選出した「世界をつくった1000人の偉人」の中に唯一名を連ねた日本人だという話を聞いたことがある。
 ご多分にもれず、私も北斎をこよなく愛しており、これまでに様々な展覧会で何度も直接作品に触れてきたが、その度にその多様さ・膨大さに感嘆させられた。特に2005年10月から12月にかけて東京国立博物館・平成館で開催された「北斎展」ではひときわ大きな感銘を受けたが、今回それに匹敵する企画展が実現して、とても嬉しく思っている。たった一人でこれほど大規模な企画展を何度も開催できる芸術家は、世界広しといえども他には何人もいないだろう。
 北斎の展覧会は、見るたびに新たな発見がある。今回も未だ世にはあまり知られていない北斎の一面を見ることが出来て、大いに興味をかき立てられた。

 ロッカーにコートや大きな荷物を預け、受付でチケットを購入、本日は常設展はキャンセルした。
 今回の展示は二部構成になっている。

[第一部 北斎とシーボルト]
 最近の研究で、長崎のオランダ商館長は4年ごとの江戸参府のたびに北斎のもとを訪れ、作品を依頼していたことが分かってきているという。
 第一部では、オランダ国立民族学博物館の他、フランスやイギリスの博物館が所蔵する作品が里帰り展示されている。これらの多くは北斎および彼の弟子が描いた肉筆画で、オランダにある作品はかのシーボルトが持ち帰ったものが多数含まれている。
 北斎といえば真っ先に思い浮かぶのが「冨嶽三十六景」などの風景版画絵だが、これら世に知られている作品は北斎が老境に入ってから一時期に生み出されたものであって、長い人生の中ではより多彩な芸術活動を展開していたことを今回の展示で再認識した。自分にとって北斎と人物画はちょっと結びつかなかったが、歌麿とは全く違った趣のある作品が数多くあり、強いインパクトを受けた。人物が身につけている衣装や帯のデザインなども多彩で、服飾の研究材料としても立派に通用すると思う。

[第二部 多彩な北斎の芸術活動]
 第二部では「冨嶽三十六景」などのお馴染みの作品の他に、やはり里帰りした海外の作品も数多く展示されている。版画、摺物、肉筆画、版本、作品の大きさ、テーマ、その多彩な内容にはひたすら感嘆するばかり、最後に展示されている83歳の時の自画像まで、食い入るように見入った。
 私が特に感銘を受けた作品は、風景画の少し前に展示されていた「吉原妓楼の図」、吉原の一級店が大判五枚続で描かれており、吉原の屋内構造を知るうえで興味深い作品だという。暖簾のかかった入口、土間、2階に上がる大階段、炊事場、座敷、顔見世の部屋、内所、奥の中庭から遊女たちの部屋まで描かれており、巧みな描写とセンスの良さに大いに感動した。登場人物がまとった衣装の華麗なデザイン、衣装の裾だけ描かれた階段、2枚に描かれた縁起棚、唐紙の幾何学模様、薦被りにさり気なく描かれた版元のロゴマーク、柱に貼られた「火の用心」の注意書きなど、心憎いまでに見事で興奮に前身が震えた。自分のそばで見学していた大学生くらいの年恰好の男性二人組も「この絵いいですね!」と言い合っていた。所蔵は山口県立萩美術館とのことで、常設展示されているなら見に行きたいし、絵葉書なども欲しいと思った。
 他では、上野の企画展の時にも大きな感銘を受けた「元禄歌仙貝合」が心に残った。江戸も中期以降になると文化が成熟し、豊かな教養を持った文人が遊び心から多くの逸品を生み出したことが再認識できた。変体仮名と古文の勉強をして、詞書が読めるようになりたいと思った。

 途中何度か座って休んだが、3時間近く鑑賞した。その感動は、自分の拙い文章力では到底表現できない。百聞は一見にしかず、ここでは多くの北斎作品を見られた感激だけを記したい。
 
 今回、里帰りした海外にある作品を見て、数多くの北斎作品を所蔵するオランダの博物館をぜひ訪れて現地で直に接してみたいと思った。
 また浮世絵の版元にもひとかたならぬ興味を持ったので、関連書籍を何点か読んでみようと思っている。
 
by nene_rui-morana | 2008-01-20 15:59 | 旧展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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