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茶の湯 前期

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             [会 期]2017年4月11日(火)~5月7日(日)


             [会 場] 東京国立博物館 平成館



 自分は足腰の筋肉が硬く正座ができないため、茶道の嗜みはない。しかし、日本と歴史に多大な影響を与えた茶の湯の世界に寄せる関心は並々ならぬものがある。様々な展覧会で名宝の数々に触れ、茶道具にも魅せられている。

 そんな自分にとって、表記特別展はもちろん、ハズせるわけはない。

 ※ 作品名の次の()内は所蔵者です



第一章 足利将軍家の茶湯-唐物荘厳と唐物数奇

 日本で喫茶の習慣が本格的に浸透したのは12世紀頃といわれる。宋で主流だった抹茶による喫茶法が彼の地の渡った僧侶によって国内にもたらされ、禅宗寺院や武家・公家の間で広まった。臨済宗開祖・栄西が鎌倉幕府三代将軍・源実朝に進上したという『喫茶養生記』は日本史の授業でも触れられる。


 室町時代に入ると権力者は舶来の「唐物」を用いて茶を喫し、権威を示すようになった。

 本章では、足利将軍家のコレクションである「東山御物」を中心に、唐物の名品が展示されていた。基軸となった『君台観左右帳記(くんだいかんそうちょうき)』は、義満の時代に整ったコレクションの評価、鑑定と飾りの次第(構成)について、能阿弥がまとめたものを礎とした規定書である。原本は存在せず、相阿弥による奥書があるものの写本が伝わっているという。



 





 宋代の青磁は好きな芸術作品、今回も、【青磁下蕪花入】(国宝、東京・アルカンシエール美術財団)、【青磁鳳凰耳花入】(大阪市立東洋陶磁美術館)、シンプルで美しい造形に魅了された。


 天目、天目台、水柱、花入れ、盆石、香合、香炉、飾り、等々、見る者を魅了してやまない展示が続く。


 ケースの中に【油滴天目】(国宝、大阪市立東洋陶磁美術館)が展示されていた。水に浮かぶ油粒のような銀色の斑紋から、この名で呼ばれる。悲劇の関白・豊臣秀次が所持していたという名品、繊細で格調高い美しさに、私も魅せられた。

 【曜変天目 稲葉天目】(国宝、東京・静嘉堂文庫美術館)と再会を果たす。多くの人が熱心に見入っていた。あらためて見て、小ぶりな作品であることを実感した。『君台観左右帳記』では「建盞の第一」とランク付けられている。建盞とは、中国福建省にあった建窯で、宋・元代につくられた天目のことだと、今回調べて知った。

 京都・龍光院所蔵の重文【油滴天目】も、片手に収まるほど小さい。小さな油滴の表情が印象的、螺鈿の天目台ともぴったりマッチする。


 同時代の絵巻物等にも、喫茶の風景が登場する。【慕帰絵 巻五】(重文、京都・西本願寺)は、以前見たかもしれない。



第二章 侘茶の誕生-心にかなうもの

足利将軍家は高級な「唐物」を珍重したが、幕府の力が衰え町衆が文化を担うようになると、日常の中にも心に叶うものを見出し取り合わせる「数寄の茶」、いわゆる「侘び茶」が誕生する。この精神は、堺の豪商・武野紹鷗から町衆へと広がり、深められた。


 本章のスタートは、【灰被天目】、福建省で焼かれたといわれ、常用だったが、時代と共に珍重されるようになる。


 武野紹鷗に関する展示作品からは、やはり圧倒されるオーラを感じた。

藤原定家筆【小倉色紙「あまのはら」】(奈良・大和文華館)は、その名のとおり、『小倉百人一首』の中の阿倍仲麻呂の和歌が書かれている。当然、あと99枚あったのだろうが、どのくらい現存しているのだろうか。茶の湯においては中国絵画や墨跡が掛けられていたが、紹鷗が本作品を掛けたことにより古筆も用いられるようになったという。

 灰釉によって白色とした【白天目】(重文)も心に残った。

 【黒塗大棗 紹鷗棗】(東京・三井記念美術館)は私好み、凛とした輝きを放つ端正な名品である。


小さく素朴だが気品あふれ愛らしい造形の茶入も、お気に入りの茶道具、【唐物肩衡茶入 銘 初花】(重文、東京・德川記念財団)、【唐物肩衡茶入 北野肩衡】(重文、東京・三井記念美術館)、【唐物肩衡茶入 松屋肩衡】(重文、東京・根津美術館)、【唐物肩衡茶入 銘 富士】(東京・前田育英会重文)、全て魅せられた。


【芦屋無地真形釜】には銅面に、「百人一首」中の崇徳院の和歌「瀬をはやみ...」の風景をとらえた、繊細で優雅な図様が描かれている。


朝鮮半島で焼かれた「高麗茶碗」は、多くは日用器だったが、侘茶の流行と共に人気を集めた。自分も、素朴な造形に惹かれた。


福林墨跡も展示、蘭渓道隆や無学祖元の名筆は見たかもしれない。



第三章 侘茶の大成-千利休とその時代

 いよいよ千利休ゆかりの展示が登場、興奮で胸が高まる。

【印可状 虎丘紹隆宛(流れ圜悟)】(国宝、当館)は、『碧厳録』の編者・圜悟克勤が弟子の虎丘紹隆に書き与えた印可状の前半、「流れ圜悟」の別称は船が難破し薩摩の坊津に流れ着いた伝承に拠る。大徳寺大仙院から堺の豪商の手を経て、古田織部が二分し、前半を堺の祥雲寺に寄進、後半を伊達政宗に献納した。

 【千利休像】(大阪・正木美術館)は長谷川等伯筆と伝わり、重文に指定されている。

 下膨れの【唐物尻膨茶入 離宮尻膨】(東京・永青文庫)、頭が伸びた【唐物鶴首茶入 利休鶴首】、ネーミングと合わせてとても良いと思った。

当日のメモによると、「漆状」も展示されていた作品があったようだが、どれだったか思い出せない。

展示室内には、『待庵』の映像が流されていた。


第2会場へと移動する。


 京都・表千家不審菴からは至宝が何点も出展されていた。

【真台子】と【唐銅皆具・釜・風炉】は、利休の塗師の一人・盛阿弥の作、やはり風格を感じた。

【山上宗二記】は利休の愛弟子・山上宗二が書きあげた名物茶道具の目録、彼は北条氏の庇護を受け、小田原攻めの時に殺害された。時は戦国とはいえ、利休、織部、宗二という、師弟関係にあった大茶人が揃って非業の死を遂げている事実に、茶の湯が時代に与えた影響の大きさを、権力者の影を、ひしひしと感じる。


 棗は茶入と並んで大好きな茶道具、【黒塗中棗】や【黒塗尻張棗】(京都・裏千家今日庵)の漆黒の美しさに息を呑んだ。

【南蛮締切耳付水指】(熊本・松井文庫)は、細い筋目や瀟洒な造形が個性的、17世紀にホイアン近郊で焼かれたと言われる。ベトナムを旅行した時に現地の窯元?で数多くの焼き物を見た記憶がある。

【書状 二月十四日 松佐宛】(熊本・松井文庫)は、利休最期の状況を伝える書状として著名だという。


 室内には、茶室『燕庵』の原寸大復元模型が展示されていた。


小さな芸術品が大好きな自分にとって、可愛い香合魅力的、展示作品の全て良いと感じた。棗や茶入と並んで、今後は香合にハマりそうな気がする。

 【織部さげ髪香合】は、いかにも織部らしい作品だった。

【黄瀬戸根太香合】【志野重餅香合】は、所蔵する三井記念美術館で見たかもしれないが、当時はまだ良さが分からなかったようで記憶がない。 

 なお、当日のメモには【織部木兎香合】の記載がありマークもしてあるが、出品目録にも図録にもそれらしき作品が見当たらない。写真が展示されていたのだろうか。


 私がもっとも敬愛する芸術家の一人・本阿弥光悦、書や陶芸その他多方面で活躍した天才だが、時代を代表する茶人でもあった。今回は数は少ないが、光悦作の茶碗が展示されていた。なお、茶の湯は禅宗と密接に関わっているが、光悦は熱心な日蓮宗不授不施派の信者だったことが、よく知られている。


 

第四章 古典復興-小堀遠州と松平不昧の茶

本章ではまず、作庭家としても有名な大名茶人・小堀遠州ゆかりの展示を堪能した。

 【古瀬戸茶入 銘 在中庵】(重文、大阪・藤田美術館)は、遠州愛用と伝わる。

 【高取茶入 銘 横嶽】(静岡・MOA美術館)は、遠州が最も高い評価を与えた高取焼茶入の代表作とのことだった。

 【高取面取茶碗】は、濃褐色の釉薬が印象的だった。

 先述のとおり、茶入はお気に入りの茶道具、今回は、「瀬戸茶入」の名品を堪能した。

 遠州が八条院智仁親王より拝領したといわれる【瀬戸茶入 銘 於大名】(当館)ほか、【瀬戸茶入 銘 橋姫 本歌】、【瀬戸茶入 銘 廣澤 本歌】(京都・北村美術館)、【瀬戸茶入 銘 玉川】など、心に残った作品が何点もある。

 

野々村仁清と尾形乾山の、味わい深い香合も展示されていた。

鶴の形の【色絵鶴香合】(東京・サントリー美術館)、玄猪餅(玄の子餅)をかたどった【色絵玄猪香合】(京都・北村美術館)、はじき形に梅をデザインした【銹絵染付鎗梅文香合】(京都・北村美術館)、等々、様々な造形に注目した。


【彫三島茶碗】(大阪・湯木美術館)【彫三島茶碗 銘 千歳】の、素朴だが印象的な文様に魅力を感じた。

 展示室内には「番付」も展示されていたらしい。多分、茶人か茶道具の番付だと思うが、例によって思い出せない。


大名茶人として有名な松平不昧関係の展示は、現地で見ることはなかったが松江旅行を思い出しながら鑑賞した。

 品格ある美しさの【油滴天目】(重文、九州国立博物館)は、中国福建省で焼かれたものである。

 【大菊蒔絵棗】は、酒井抱一とのコラボ作品で人々を魅了する原羊遊斎の作、琳派ゆかりの芸術家の茶の湯のジャンルでの活躍・人脈の広さを確認できて、嬉しかった。



第五章 新たな創造-近代数寄者の眼

 【南蛮縄簾水指】(大阪・藤田美術館)は、筋状の文様に心惹かれる。東南アジアの焼き物が好まれた理由が、何となく分かるような気がした。

 当日のメモに「茶の湯 受け継がれる美の世界」とあり、関連映像が流されていたのかもしれないが、これも毎度のことながら長期間が経過し、残念ながら詳細は思い出せなかった。




 様々な展覧会で目にする度に魅了されていく茶道具、名品の数々が集結した本展覧会は、まさに自分にとっては待望の企画で、受けた感動も並々ではなかった。再確認したこと、新たに学んだことも数多く、未来につながると思う。

 感想は、後期の記事にまとめて記します。






by nene_rui-morana | 2020-11-09 18:00 | 展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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