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平安古筆の名品

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            [副 題] 飯島春敬の観た珠玉の作品から


            [見学日] 2016年11月30日(水)


            [会 場] 五島美術館


表記特別会の情報をどこから得たのか、もはや覚えていないが、おそらく、別の美術館に赴いた際にチラシを手に入れたと思われる。

習字を習い多少見栄えのする筆字を書いたのは遥かなる昔、今や書く字は自分さえ判読できない時がある。学生時代の不勉強が災いして変体仮名は読めない。

それでも、平成館で開催された展覧会では、古筆や美しい料紙の魅力を堪能した。だから、表記展覧会にも足を運んでみようという気持ちになった。


当日は畠山記念館の展覧会を見た後に、会場に向かった。

五島美術館に行くのは今回が初となる。道中、五島家の立派な邸宅が目に入った。

※ 作品名の後の()内は所蔵者、無記入は当館所蔵です。



Ⅰ 仮名の成立から典型へ 九〇〇年頃~一〇五〇年頃

 本章には、日本史の授業で習う「三蹟(小野道風、藤原佐理、藤原行成)」や紀貫之などが登場する。藤原道長が栄華を極め、王朝文化が花開いた時期と重なる。

 本章で心に残ったのは【仮名消息 伝藤原行成書】(重文、書芸文化院)、いわゆる紙背文書で、流れるような繊細な筆致だった。やはり藤原行成書と伝わる当館および書芸文化院所蔵の2つの【関戸本和漢朗詠集切】とは、仮名と漢字の違いはあるが書風が異なる。行成については官僚として活躍していた頃から能筆家の誉れ高く、その書を宮中の皇族も所望したことを交流のあった清少納言が『枕草子』に伝えているが、これらの作品を見て、自分も行成の多彩さに魅せられた。



Ⅱ 多彩な仮名表現の展開 一〇五〇年頃~一一〇〇年頃

 前章に続き、三蹟のほか、「三舟の才」で有名な藤原公任、紫式部などが登場し、各人の息遣いを感じる思いがした。

 本章では【太田切 伝藤原公任筆】が私好みだった。青の料紙には漢字が、白の料紙には仮名が書かれている。それぞれ個性が強い書体と、文様がしっかり残る料紙が印象的だった。

 【針切 伝藤原行成書】(書芸文化院)の「針切」とは、小柄な字の連綿書体と筆線が短い直線を繫いだような印象から名付けられたという。その名のとおりすらすらとした書体で料紙は素紙、もしかしたら下書きだったのかもしれないが、しかし見事と感じた。



Ⅲ 仮名の新風の登場 一一〇〇年頃~一一五〇年頃

 中学高校の授業で習った『古今和歌集』ほかの八代集や『源氏物語』などが登場する。これらが平安王朝でどうような地位を占めていたかが伝わってくる。

 本章では、筆風のあわせて、きらびやかな料紙にも魅せられた。

【銀切箔唐紙切(金王集切) 伝源俊頼書】(書芸文化院)の料紙は、雲母で唐子入りの大柄宝相華唐草を刷りだし、さらに銀の大切箔と細かい箔を散らしている。

 三十六歌仙の歌集を一組書写した内の一部を「石山切」と呼ぶ。「石山切」は装飾料紙の美しさで人気があるとのこと、自分も【石山切(伊勢集)】の切継料紙の華麗で美しいデザインと色彩に心底魅せられた。料紙だけで字が書かれていなかったとしても十分見応えがあると思う。料紙は立派な芸術作品である。



Ⅳ 平安時代末期の仮名 一一五〇年頃~一二〇〇年頃

 本章には、寂連、西行、藤原俊成・定家父子、さらには源実朝などの名が見られ、時代が移ったことが感じられた。

【松籟切 伝藤原行成書】は、当館所蔵と書芸文化院所蔵の2点を出展、料紙は白の胡粉地に花唐草文様を雲母刷りした和製の唐紙、この作品を含め、展示の中には光の角度で模様が透けて見えるものもあった。

展示室では、色彩もデザインも美しい料紙と、雅な書に囲まれて、心洗われる清々しいひと時を過ごすことができた。料紙の中には、「唐紙」という言葉が表すように輸入物も含まれているだろう。展示の表装も素敵だったと感じる。




本展覧会の展示作品の作者には、高校の古文や日本史の授業、過去に読んだ歴史書などで触れた、そうそうたる人物が名を連ねている。おそらく、実際にその人物が書いているのではないと思うが、誰のどのような書体が珍重されたのかが伝わって来て、歴史も肌で体感した。

 例によって、古文書をしっかり勉強しておかなかったことを後悔したが、素人でも良さは分かる。日本美術品の外国人コレクターの中には、日本語を解さない方もおられる。

 本稿とあわせて、禅や茶の湯の展覧会の記事をまとめ、禅宗関係の貴重な墨跡なども当館は所蔵されていることを知った。

 今後、当館で良い企画が催されたら、ぜひまた足を運びたい。

 なお、展覧会には関係がないが、当館界隈ではセーラー服姿の小学生、私とは違う世界に生きる子どもたちを何人も見かけた。私は今生でその世界に我が身を置く可能性はない。現在の生活の拠点としている町を誇りに思う一方で、生まれ変わったら彼らのような世界に身を置きたいと感じたことは、否定できない。


by nene_rui-morana | 2020-11-07 21:25 | 展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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