人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ミケランジェロと理想の身体

ミケランジェロと理想の身体_f0148563_14402541.jpg


[会 期] 2018年9月7日(金)   [会 場] 国立西洋美術館


 自分にとってミケランジェロは特別な芸術家、貴重なその作品が東京で見られるとあっては、足を運ばずにはいられない。

 ※ 作品前の記載は作者、後の()内は所蔵です。



Ⅰ 人間の時代-美の規範、古代からルネサンスへ

Ⅰ-1 子どもと青年の美

スタート章の前半は、1世紀前半から2世紀頃の作品、ケースなしに見られた。

 【プットーのレリーフ】(ヴェネツィア国立考古学博物館)は、浮彫が好きなので嬉しい展示だった。プットーたちが抱えているのは農耕の神サトゥルヌスの大鎌と錫杖、中央部の玉座の下の球はサトゥルヌスを暗示しているという。

 【6人の奏楽天使の群像】(フィレンツェ、ステファノ・バルディーニ美術館)は、制作された17世紀初頭に人気があったニッコロ・ロッカタリアータの工房の作だという。

【アキレウスとケイロン】(ナポリ国立考古学博物館)はポンペイの西方15キロに位置し、同じくヴェスヴィオ火山の噴火で埋まったエルコラーノで発見された。アキレウスは古典的なポーズであるコントラポストで表現されている。

 【ガニュメデスの誘拐】(フィレンツェ国立考古学博物館)も好きなタイプの作品、二人の人物と鷹、樹、壺とそこから流れる水、見事に表現されている。


Ⅰ-2 顔の寛政

タイトルのとおり、本章には頭部の彫刻が展示されていた。

ジョヴァンニ・デッラ・ロッビア周辺作【バッカス】(フィレンツェ、ステファノ・バルディーニ美術館)は、一見女性のように見えた。


Ⅰ-3 アスリートと戦士

 本章と次章はトルソーのような作品が続き、小さめのものが多かった。

【アッティカ赤像式柱形クラテル、ケンタウロマキア】(フィレンツェ国立考古学博物館)は、似た作品を他所で見た記憶がある。

 【アメルングの運動選手】(フィレンツェ国立考古学博物館)は、同様の形態を持つ彫刻の断片の発見により、全体像が明らかになっているという。作者はローマ国立博物館所蔵【円盤投げ】の作者ミュロンともいわれている。


Ⅰ-4 神々と英雄

 【ネプトゥヌス】(フィレンツェ、ステファノ・バルディーニ美術館)の作者ジョヴァンニ・アンジェロ・モントルソーはミケランジェロが評価・尊重していた彫刻家兼建築家で、日本では織田信長が誕生した1534年にミケランジェロがフィレンツェからローマに発った際に、未完の仕事を委ねられた。このネプトゥヌスの顔はミケランジェロに似ている

 【子どもたちを解放するテセウス】(ナポリ国立考古学博物館)と【ヘラクレスとテレフォス】(ナポリ国立考古学博物館)は先述のエルコラーノ出土している。

 【ヘラクレス】(フィレンツェ国立考古学博物館)は、小さいが均整がとれている。

 ブロンズの薄板に鍍金した作品は、残念ながら老眼でよく見えなかった。



Ⅱ ミケランジェロと男性美の理想

【アポロンとアスクレピオスの間に立つケンタウロス】(ナポリ国立考古学博物館)はポンペイで発見された壁画、20世紀の訪問が懐かしく思い出された。

 【竪琴を弾くアポロン】(フィレンツェ国立考古学博物館)は神々しいまでに理想的な肉体美が表現されている。ポーズもキマっていて、輝かしいオーラを放っていた。竪琴や幹にかけられた衣服の表現にも注目した。

 ロンバルディアの芸術家?作【ダヴィデとゴリアテ】(フィレンツェ、スティッベルト博物館)と【ゴリアテの首を持つダヴィデ】(フィレンツェ、スティッベルト博物館)は鉄の薄板製、自分の眼で鑑賞するにはこれくらいの大きさがほしい。


下階へと移動する。


 展示室で、本展覧会の2つの逸品を、じっくりと鑑賞した。1つは未完、もう1つには修復が施されている。


 ミケランジェロについてはこれまでに多くの関連書を読んできたが、今回出展されている【ダヴィデ=アポロ】(フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館)は初めて知った。解説によるとこの彫像は、フィレンチェ司法長官バルトロメオ・ヴァローリのために制作していたが、1534年にミケランジェロがローマに発った後は未完のままアトリエに残された。その後ヴァローリは反メディチに転じて処刑され、本作を含めた財産は没収されてコジモ1世のものとなった。メディチ家の歴代当主の中で、豪華王ロレンツォに並び強烈なカリスマ性を放つコジモ1世の業績に日本で接したことも、自分にとっては大いに意味がある。

本作には鑿の痕跡が残り、磨きこまれてもいないが、一方でミケランジェロの仕事がより伝わってくる。憂いを帯びた表情も印象深い。主題を確定するのが難しく、【ダヴィデ=アポロ】というふたつの名前を合わせたタイトルが好まれているという。私自身はアポロだと思っており、アポロであってほしい。何故なら、ミケランジェロは有名なダヴィデ像を作っているから。


【若き洗礼者ヨハネ】(ウベダ、エル・サルバドル聖堂、ハエン(スペイン)、エル・サルバドル聖堂財団法人)はミケランジェロ20代前半の作品、修復されたヨハネの容貌はまだ少年である。1936年にスペイン内戦により本作は甚大な被害を受け、瓦礫の中から救い出された14の断片が21世紀に入って破壊前の写真等を参考に復元された。オリジナルの現存部分は40パーセントほどとのことだが、顔は黒焦げになりつつも一部分が残り、双眼は失われずに済んだ。

内線の激しさを伝える本作は、まさに時代の生き証人である。

 個人的には駱駝の毛並の表現などにも注目した。破壊を免れていたら、ダヴィデやピエタと並んで、全世界のその名を知られていたかもしれない。


ベネデット・ダ・ロヴェッツァーノ(ベネデット・グラッツィーニ)作【若き洗礼者ヨハネ】(ローマ、サン・ジョヴァンニ・デイ・フィオレンティーニ美術館)は、タイトルのとおりヨハネは若い男性の姿で表現されている。

当日のメモには「ミケランジェロ 理想の美を求めて」とある。映像放映がされていたのかもしれないが、残念ながら記憶が残っていない。


上階へと移動する。


ヴェネツィアの芸術家?作【ベルヴェデーレのアポロン】(フィレンツェ、スティッベルト博物館)は、ヴァチカン美術館でオリジナルを見たかもしれない。写真等は見た記憶がある。

 出展されている【ラオコーン】はヴィンチェンツォ・デ・ロッシが1584年頃に制作した作品、個人所蔵でガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託となっている。

 バッティスタ・フランコ作【男性頭部の習作】は、ヴァチカン・システィーナ礼拝堂【アダムの創造】のコピーといわれる。

いずれも、イタリア旅行を懐かしく思い出しながら鑑賞した。



Ⅲ 伝説上のミケランジェロ

本章にはタイトルのとおり、後世に伝説となったミケランジェロの肖像や彫像が展示されていた。

 前章と本章の一部の作品から、デューラーやブリューゲルの版画を連想した。



≪感想≫

 ミケランジェロの貴重な作品を日本で見られた喜びは計り知れない。

 展示作品の何点かはイタリア訪問時に見ているかもしれないが、記憶はない。それでもやはり、懐かしさで胸がいっぱいになった。

 海外旅行の見通しがたたないままに時間は流れ、この間に愛するヴェネツィアは日本と同様に未曽有の水害に襲われた。そうこうするうたに全世界が緊急事態となり、イタリアでも多くの感染者が出て、ますます再訪は遠くなってしまった。

 コロナが終息し、再びイタリアを訪れて現地で展示作品と再会が果たせる日を、心待ちにしている。


ミケランジェロと理想の身体_f0148563_14403465.jpg


by nene_rui-morana | 2020-09-24 22:30 | 展覧会・美術展(西洋編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

by nene_rui-morana