2020年 04月 12日
北斎 視覚のマジック (小布施・北斎館名宝展) 後期
[見学日] 2020年1月4日(土)
[会 場] すみだ北斎美術館
前期で大いなる感銘を受けた表記展覧会、後期展示に足を運ぶ道中も期待に胸はふくらんだ。
★ 肉筆画
スタートは【柳下傘持美人】、描かれているのは瓜実顔の楚々とした美人、衣装のデザインと高下駄も印象的だった。
【吉原遊君八朔の行事】の遊女は白無垢姿、襟元等の表現に注目した。
【調布の玉川】は、もとは六曲一隻の屏風の一つだったとのこと、同じテーマの作品は他所で見た記憶がある。
色鮮やかで躍動感あふれる【菊図】は、これまで見た中で最高の菊画と感じた。対して同じ弘化4(1847)年に描かれた【渡舟山水】はモノクロームに薄藍のみの静かな画風、あらためて、北斎の多才さには驚嘆させられる。
画帖は好きなジャンルなので、【肉筆画帖】は嬉しい展示だった。水中の爽やかな【鮎】、可愛らしい【ゆきのしたと蛙】、今年の干支に相応しい【塩鮭と白鼠】などが、特に心に残った。
前期に続き、【日新除魔】と感激の対面を果たした。墨のかすれなどから、北斎の息遣い、筆遣いが感じられる。
本日は獅子舞や剣舞を描いた作品が展示されていた。
なお、詳細は記憶していないが会場には、北斎の浮世絵の弟子でもあった蘭学者・本間北曜(郡兵衛)に関する解説展示もあったようである。この人は、北斎だけでなく、勝海舟、榎本武揚、清河八郎といった幕末のVIPとも交流をもっており、大いに関心をそそられる。今後ぜひ、調べていきたいと思っている。
★ 摺物
オーダーメイド作品であるこのジャンルは、小振りが多いが貴重な秀作揃いで、個人的には大好きである。例によって、書き添えられた川柳等が読めず残念でならない。
【座敷狂言春駒】は、切りとられた左側の三分の一を想像しながら鑑賞した。
【金時酒宴】は、見ている当方も楽しくなってくる。
やや大き目な【洗い張り】は、長唄の会の案内摺物で、下半分に長唄の「番組」が記されている。柳の木に掛けられた布、鹿の子絞りの布が入った盥、小屋、燕等、モティーフの配置が絶妙で、空摺も見られる。
【坪庭の鴬】に描かれた女性は、庭の梅の枝に止まる鴬を見つめ、「耳にタコができるほど啼き声を聞きたい」という狂歌が添えられている。後姿の幼児が手にするのは凧、画才と遊び心がミックスした逸品である。
【諸芸三十六のつゝき 笛】は、シリーズ摺物の一作、他が何枚残っているかは分からないが、ぜひ他作も見てみたい。本作は、モデルの衣装とポーズ、生垣、庭木、手にした燈籠?、等等、全てが素晴らしい。
【□□天神(千金の春)】は、今日見るに相応しい。
【女行列の図】は富本節の行列を描いたものだが、フィクションで実態ではないらしい。「富本惣連中」などの添え書きがあり、「連中」の語源が分かったように思った。
★ 版画
小判錦絵シリーズ【阿蘭陀画鏡 江戸八景】は、ヨーロッパの銅版画に触発された作品とのこと、北斎のチャレンジ精神には敬服させられる。本日は【両国】【観音】【堺町】が展示されていた。
【風流見立狂言 柿山伏】は、愛らしい子どもが描かれ楽しく見る一方で、卓越した描写に感嘆した。
【妊婦】は<鳥羽絵>の戯画、おそらく、遣手婆・臨月の迫った遊女・唖然とする相手の男性を描いたものだろう。後摺で狂句が削られているという。
見る機会の多い【冨嶽三十六景】と【諸國名橋竒覧】のシリーズは、飛ばし気味に、他では省略されることの多い作品を中心に鑑賞した。摺りの良い味わいのある上質な作品だった。
春婦斎北妙作の豆判錦絵【冨嶽三十六景】は、他のシリーズと同様に前期とは展示が変わっていた。
4階の展示室へと移動する。
入口外には、レジスタンス活動に身を投じていた若き日に目にした北斎作品に感銘を受けたというポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督の日本スケッチなどがパネル展示されていた。
★ 肉筆画
本日も、2つの祭屋台を縁絵も含めてじっくりと鑑賞した。旅行に行かれない身としては、都内でこの作品を見られるのは本当に嬉しい。息を呑むほどシュールで美しく、見応えがある。縁絵も素晴らしい。この名作を80代で制作した北斎の情熱に、あらためて驚嘆させられる。
【東町祭屋台天上絵 鳳凰】の色鮮やかな鳳凰は、直前に見た「即位の礼」祝賀パレードで両陛下が乗られたオープンカーにデザインされていた鳳凰に比べると、庶民的で親しみがあると自分には感じられた。
【上町祭屋台天上絵 男浪】は、今や【モナ・リザ】についで世界美術史上ナンバー2の名画ともいわれる【冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏】を更に昇華させたような作品、北斎自身が語ったように百歳までも生きたなら、世界に誇る斬新な傑作を更に何枚か残してくれたように思う。
★ 版本
このジャンルも個人的には好きで、【北斎漫画】以外は版画に比べると展示の機会は多くはないので、念入りに鑑賞した。
≪感想≫
本展覧会の水準は期待をはるかに上回り、受けた感動も並々ではなかった。
版画は上質揃い、肉筆画や摺物は私好みの貴重な一点ものが数多く出展され、これまではその名前しか知らなかった小布施・北斎館の底力を実感できた。この点では、本稿執筆の約1年前に見学した永田生慈氏のコレクション展≪新・北斎展≫に並んで、特に心に残る北斎展となった。
ひと通り見た後も、3階と4階を往復して何度も繰り返し鑑賞した。
館を出る時は、いつまでも見ていたい気持ちが胸にあふれ、名残惜しさも並々ではなかった。
小布施で出展作品に再会できる日が来ることを、心待ちにしている。