人気ブログランキング | 話題のタグを見る

永井荷風と江戸東京の風景

永井荷風と江戸東京の風景_f0148563_20344430.jpg


 令和2年初の展覧会見学は、江戸東京博物館、1月3日の金曜日、赤坂迎賓館で即位の礼のオープンカーを見た後、JR線で両国へと向かう。

 駅近くの店で軽食をとった後、江戸東京博物館へ、本日は常設展は無料で見学できるので、荷物をロッカーに預けてエレベーターで上がった。


 展示の主役・永井荷風は、明治12(1879)年に東京府小石川区で誕生し、昭和34(1959)年に千葉県市川市で亡くなった。表記特集展示が始まった令和最初の年・2019年は、生誕140年、没後60年となる。

 壮吉(荷風の本名)の父・久一郎は明治政府の高官で日本郵船の複数の国外支店長もつとめた。フランス留学が表すように荷風はエリート家庭に生まれ育った。

 最初の展示は、荷風の「へその緒書」、見取り図、生誕の屋敷母・恆の受洗証書や料理メモなど、家族ゆかりの品々、パネルの若き日の荷風の写真はキリっとした好青年で、髪も整えられ和服や洋服もキマっている。本日の展示と同じものかは定かではないが、他所でも幼少期の荷風の家族写真を見た記憶がある。この時代に写真撮影された家庭はかなり裕福だっただろう。


 続いて、中学校の「校友会画帖」や、江戸文化に傾倒した荷風が愛した浮世絵や落語・歌舞伎ゆかりの展示が目に入る。

 散歩好きで有名な荷風が愛用?していた嘉永7(1854)年の地図や、自身も好きな葛飾北斎の「絵本隅田川両岸一覧」などは、心に残った。


 ほどなく、荷風自身の著作が登場する。図書館で荷風の本は簡単に借りることができるが、現在の出版ではなく初版当時のものが見られた意義は大きい。

 荷風といえば最も有名な作品はやはり、昭和12(1937)年に発表された「濹東綺譚」、舞台はここ江戸博にも程近い現在の墨田区内玉の井、東向島と地名を変えた現在は当時の面影はほとんどないが、それでも荷風の足跡を求めて訪れるファンもいると聞く。「放水路」「日和下駄」なども往年の墨田をえがいたものである。

 戦後の荷風は、墨田区のお隣・台東区浅草六区の劇場楽屋に通いつめ、最晩年体力が落ちるまで今も残る老舗・尾張屋で連日食事した。終の住処となった市川には京成線一本でつながっている。

 山の手に生まれたが、荷風は間違いなく、墨田ゆかり、下町ゆかりの作家である。


 永井荷風には近年感心を寄せており、表記展示も大いに興味をそそられた。しかしながら今回は、展示リストもない特集展示で、時間的制約もあり、深い鑑賞が出来たとは言い難い。

 それでも、荷風が愛した浮世絵や近代黎明期の墨東の景観は自身も大いに共鳴できるものがあり、展示から受けたインパクトは小さくはない。

 実は当館では、1999年に生誕120年・没後40年の大規模な回顧展『永井荷風と東京』が開催されたが、当館活動の魅力も酒井抱一も認知していなかった無知な自分は足を運ぼうという気持ちにもならなかった。

 幸い、この時の図録を自宅近くの図書館で借りることができた。この本で荷風について再学習し、彼の人生や作品を通じて近代黎明期の東京東部の歴史と風俗を体験したいと思っている。


 当日は同じフロアーで、獅子舞やからくり人形のデモンストレーションなども催されており、令和最初の正月を体感できた。


by nene_rui-morana | 2020-02-02 10:00 | 東京スカイツリーの町から | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

by nene_rui-morana