2019年 04月 20日
大千住(おおせんじゅ) 後期
年末に見た表記展覧会の前期はとても素晴らしかったので、後期にも足を運ぶことにした。
当日は「すみだ北斎美術館」の特別展を見た後、墨田区内巡回バスと鉄道を乗り継いで現地へと向かった。
第1章 江戸と千住の絵師たち
前期と同じく、スタートは関屋圭明作【「冬枯や」自画賛】、あらためてじっくり見ると、吉野山の描写のほか、水鳥、ススキ、農作業の様子、民家、筏を繰る人々など、実に味わいがある。
ポスターに使われた村越其栄作【紅葉鹿図屏風】は、紅葉、鹿、水の流れの表現などが琳派らしい。
<まくり>調査時の様子を手文庫や紙箱と共に紹介するケースは後期も展示されていた。
奥へ進む。
本日も【関屋里元追善集】を堪能、谷文晁、鈴木其一、歌川国芳ら豪華な面目の共演、壁面のパネルで見る空摺りの表現も絶妙だった。【狂歌葦芽集】のパネルにも益々興味をそそられる。いつかぜひ、現物を見てみたい。
其一の【小督局・源仲国図】、同じく抱一の弟子・田中抱二作【牡丹図】など、琳派らしい魅力的な作品が続く。なお抱二の菩提寺は、尾上菊五郎が別荘を構え彼の別称「松の隠居」や現在の尾上菊五郎丞の本名の由来ともなった寺島とのこと、現在の墨田区東向島で、近くには中野石翁も豪奢な別荘を構えていた。
村越向栄作【月次景物図】は、全てではないが以前見ていると思う。おっとりしていて上品な画風、このジャンルの作品は非常に好きなので、再会できて嬉しい。
昇亭北寿作【唐獅子図屏風】もユーモラスな私好みの作品、師匠・葛飾北斎の【日新除魔図】と共通するものが感じられた。
展示されている歌川国芳作品は【朝比奈三郎草摺引の図】、本展覧会では谷文晁や鈴木其一と国芳とのコラボ作品が展示されていて、この時代の絵師間の、また絵師と土地の有力者との交流がうかがえた。
豊原国周作【初代市川左団次の後藤七蔵、五代目尾上菊五郎の高橋おでん、九代目市川団十郎の肴屋清治】に描かれた歌舞伎役者は、名倉家と関りがあったように感じる。
続く彼の師匠・我が歌川国貞の3作品にも同様に思った。【二代目関三十郎の碓井貞光】は以前に当館で対面済み、他所でも見たかもしれない。英一蝶に私淑していた時期の作品で、「坂東武者綱手始」を取材、画面上部には三十郎の俳名<哥山>による句❝雪なくば風情もあらず庭の松❞が記されている。いわば、サイン入りブロマイド、前期展示【東海道五十三次之内 赤坂 六代目松本幸四郎の沢井又五郎】と並ぶ逸品である。【四代目市川小団次の清水清玄、二代目市川米十郎の奴淀平、初代河原崎権十郎の直宿之助、四代目尾上菊五郎のさくら姫】、【東海道五十三次之内 土山 四代目市川左団次の阿漕平治】とあわせて、歌川派の年玉まで念入りに鑑賞した。
酒井抱一の【菊慈童図】にも、前期同様に、じっくり見入った。
2階へと上がる。
前期で記したとおり、名倉家は接骨業で財を成し、歴史に名を残す歌舞伎役者などが顧客となった。明治になってからも当主は医者をつとめ、各界の著名人との交流をもった。展示作品からは華麗な交友がうかがえる。
正面には、岡倉天心、横山大観、橋本雅邦、下村観山らに関する展示、時代が明治に移っても名倉と文化人との交流が続いたことを物語っている。岡倉天心は1893年に開催されたシカゴ万国博覧会に於いて鳳凰殿で日本美術を紹介し、名倉家がパトロンになったと推察される。
柴田是真と真哉親子、河鍋暁斎と暁翠親子の作品や、奥原清湖の作品を、今回も興味深く鑑賞した。
パネルで【素朴翁彌一の交友図】を紹介、肖像写真にはそうそうたる面々が名を連ねている。
【名倉素朴翁還暦祝賀色紙帖】は実に見応えあり、そうそうたる面々、小林清親ほか、政治家、画家、役者など、各界の著名人約100名が画賛を寄せている。
この他、当主の肖像、村越向栄の小作品、森鴎外・高橋是清らの書簡、短冊箱や短冊など、名倉家と文芸を体感できる展示を満喫した。
<感想>
前期と同様に素晴らしい内容で、感激は計り知れない。江戸の後期、郊外に位置する地域にこれほど豊かな文化交流が形成されていたことは、江戸という時代の奥深さを物語っている。この時代の有力者の財力と、文化に対する造詣の深さも、肌で感じられた。
大好きな酒井抱一、歌川国貞、鈴木其一のほか、谷文晁、歌川国芳、河鍋暁斎、柴田是真、小林清親らの作品を当館で一度に見られたのは、サブライズであり感激は計り知れない。新たな事実、特にまだ謎の多い其一の業績に触れられたのは、本当に嬉しかった。
展示作品は秀逸揃い、ほとんどが名倉家史料で、国貞作品などは他所では見ていない(名倉家にしか伝わっていない?)作品もあり、レベルの高さにも驚嘆・感激、これらを今日に伝えてくださった名倉家に心から感謝さしあげたい。
当日会場で、過去にも素晴らしい展覧会が開催されていたことを知り、つくづく悔やまれる。今後は情報収集に留意し、展覧会の折は可能な限り足を運びたい。
展示作品を含めた当館の寄託資料の中からは、将来は重要文化財に指定されるものもあるように思える。素晴らしい作品の数々が広く一般に周知され、さらに研究が進むことを切望してやまない。
なお、会場では出品リストが配布されていなかったため、本稿執筆にあたり展示作品名の照会の電話をしたところ、学芸員の方がHPからの出力の仕方を丁寧に教えて下さいました。展覧会の実施とあわせて、心より御礼申し上げます。