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大江戸グルメと北斎 前期

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[見学日] 2018年11月20日(火)


[会 場] すみだ北斎美術館



 多くの浮世絵の舞台となり、葛飾北斎生誕の地に建つすみだ北斎美術館の特別展には、入館以来皆勤で足を運ぶ決心を固めていた。残念ながら仕事等の関係でそれは途絶えてしまったが、年間パスポートを購入し可能な限り通い続けている。

 表記特別展も前回の展覧会でチラシを入手した際に、即座に鑑賞を決心した。

作者名を記していない作品は基本北斎作、所蔵は当館です。また、未だ記事がアップ出来ていないすみだ北斎美術館の展覧会もあるのですが、表記特別展の後期は2019年1月に行ったこともあり、先に掲載することにしました。



大江戸グルメと北斎 前期_f0148563_15094098.jpg章  江戸グルメの繁栄

★農業

 まずは3階の展示室から見学を開始する。

 スタートは【百人一首うはかゑとき 天智天皇】、続いて稲作を描いた【『北斎漫画』三編】が目に入る。

 【甘斎画譜】の作者・市川甘斎は北斎の孫弟子とのこと、彼の名はこの後にも登場する。


★漁業

 本コーナーでは、【春興五十三駄之内 蒲原】と、蔀関月作【『山海名産図会』三 広島牡蠣畜養之法】に注目した。


★調味料

 本コーナーには特に興味をそそられた。

製塩の様子を描いた【五十三次江都の往かい 蒲原】は、小振りだが北斎らしい名品である。

【『北斎漫画』十三編 砂糖製】はタイトルのとおり、砂糖の製造方法を伝えている。

市川甘斎は三枚続の【山海名産図会】で、蜂蜜・米・鰹節の製法を描いている。







2章 江戸の食材

★魚

 【鮟鱇図】はリアルで籠の表現も見事、北斎の画力が遺憾なく発揮されている。

 最近ファンになりつつある北斎の弟子・魚屋北溪は【魚菜図】で鮑・飛魚・蓮根を描いている。餅は餅屋(「魚は魚屋」とするべきか)、師匠ゆずりの素晴らしい作品だった。

 【『北斎画式』鈆花交魚】は初見のような気がする。


★野菜、果物

 本章の展示は北斎の弟子の作品だった。  

 魚屋北溪の【つれつれ艸 土おほね】は、コマ絵などは我が歌川国貞よりややシンプルながら、大根の空摺りなど見応えのある作品だった。

 葛飾為斎作【『花鳥山水 細画図式』三編】は、本当に小さい!!このサイズをよく描けたと思う。しかも綿密な描写で、各モティーフの勉強になる。


★食材の流通

 本章には、北斎の【『絵本庭訓往来』中編】や日本橋を描いた作品などが展示されていた。

 江戸後期の不朽の名著、斎藤月岑ほかが著し長谷川雪旦が挿絵を描いた【江戸名所図会】は、日本橋魚市の頁が展示されていた。この読本は、ぜひ原寸大の復刻版レプリカが欲しいと思っている。




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3章 江戸の料理帖

★料理人たち

【『北斎漫画』九編 士卒英気養い図】にはその名のとおり兵士が様々な料理をしている様子などが描かれているが、兵士というよりはどう見ても力士、楽しく面白い。隣の八編も可愛いかった。(左の写真は第2展示室入口に掲示)

 【『絵本庭訓往来』初編】には、足つきのまな板やまな箸、座しての調理など、現代とは違う調理道具や方法の様子が描かれている。

 【『忠孝潮来府志』巻之一】【『仮名手本後日之文章』巻之五】は、当館所蔵の名品【隅田川両岸景色図巻】の発注者・立川焉馬とのコラボ作品である。


★レシピ本

 本章には、≪味の素食の文化センター≫≪東京家政学院生活文化博物館≫が所蔵する江戸時代の料理のレシピ本と、それにより再現された料理のレプリカ(食品サンプルのようなもの)が展示されていた。








章  江戸の人気料理

 ※本章では、当館以外の所蔵については作品名の後の()内に以下のように記します。

  「味の素食の文化センター」→味  「東京家政学院生活文化博物館」→東家

  歌川国貞の作品は全て「豊国」ですが、本稿では国貞で記します。

★江戸のいちおしグルメ

 歌川国芳作【縞揃女弁慶 安宅の松】(味)は過去に複数回、見ている。傍には【鯛の香物酢】再現レプリカ(東家)が展示されていた。良く言われるように現代よりも握りがやや大きい。

 同じく国芳の【木曾街道六十九次之内 守山 達磨大師】(味)は山盛りの蕎麦が美味しそう、弟子・月岡芳年作【風俗三十二相 むまさう】(味)もタイトルとおりの作品だった。

 国貞作【やつしけんじ 雨夜のしな定】は卓袱料理を描いたもの、毎度のことながら豪華や調度や衣装の描写に感嘆させられる。

 【三長寿人】(味)は国貞が自らの七十歳のお祝いを描いたもの、尾頭付きの鯛や刺身が描かれている。国貞も江戸っ子らしく、これらを好んで食しただろう。名工と言われる彫竹の名がみえる。画中に登場するのは、三浦太郎、浦島太郎、それから仙人だろうか。左に立つ女性が持つ紙に書かれている文字は「壽福萬年 八十七米 京山」だと思うが正確には分からない。今さらながら不勉強が悔やまれる。

 はっきりした記憶はないが、国貞の【勧進大相撲休日遊宴之図 西ノ方】(味)には、版元・伊丹屋の剣菱のロゴが酒樽に描かれていたように思う。

 【『北斎漫画』初編】【『北斎漫画』十二編 素麺】【『絵本庭訓往来』下編】は、エピソードのとおり北斎は蕎麦好きで、蕎麦が身近な食べ物であったことがうかがえるような画だった。


 4階の展示室へと移動する。


★季節のグルメ

 【正月の台所】は小さめながら見事、見る度に北斎の摺物にも魅了されていく。

 西瓜や朝顔が印象的な国貞の【十二月之内 水無月 土用干】(味)は、過去に見たかもしれにい。女性や着物の描写は相変わらず国貞らしい。

 勝川春亭作【大かばやき】(味)は、季節感と熱気が伝わってくる。可愛い仔犬は、おこぼれを待っているのだろうか。

 国貞と二代歌川国久のコラボ【江戸名所百人美女 日本はし】(味)と、【『東都勝景一覧』上 飛鳥山】は、見た記憶がある。

 【さくらずし】(東家)などの再現レプリカも展示されていた。

 展示ケース内の【忠臣蔵当振舞】(石川雅望判、葛飾北岱画)は、初鰹を盗ろうとする犬に男が包丁を振りかざしている。後方には「塩」の文字、塩谷判官(浅野内匠頭)の松の廊下刃傷事件を暗示していることが容易にうかがえる。添えられた狂歌も関連ある内容なのかもしれないが、例によって学生時代の不勉強が災いし読めず残念だった。


★江戸のスイーツ

 本章には、甘党と伝わる北斎が好んだのであろうスイーツが多数登場する。

 【五十三次江都の往かい 水口】【東海道五十三次 金谷】などを見ると、街道筋の名物甘味が旅人を楽しませたであろうことがうかがえる。

 【東海道 彩色摺 五拾積三次 につさか】は名刺くらいのミニチュアサイズに名物を描いている。

 本コーナーにも【江戸名所図会】、御菓子に関連ある頁が紹介されていた。

 御菓子のレプリカも展示されていた。


★江戸の高級料亭グルメ巡り

 本日特に感動・興奮したのは、本コーナーの展示だった。

 我が国貞と広重のコラボ作品【東都高名会席尽】(味)シリーズは文句なしに我が国貞の代表作、自分の中でも最高ランクを占めるであろう名品である。見立て、コマ絵、役者の個性、全て素晴らしい。『橋本 牛若丸』に描かれているのは国貞邸に程近い柳嶋妙見そばに大正時代まであった料亭、『青柳 小野道風』に描かれているのも当館から程近い東両国にあった料亭である。

『八百善 八百屋半兵衛』で紹介されている高級料亭・八百善、酒井抱一らが集ったことは良く知られている。

『海老屋 海老ざこの十』に六代目・市川海老蔵(八代目・市川団十郎)が描かれているなど、実に心憎い。少し後に、やはり海老屋を描いた【『東遊』王子海老屋】も展示されていた。

 フィナーレは八百屋善四郎が著し北斎が画を描いた【『江戸流行 料理通』二編】、こちらは抱一や谷文晁も挿絵を描いている。抱一と北斎は身分は違うが1歳違い、活動拠点も遠くない。いささか乱暴だが、この作品を見て、かねてから自分の中に抱いていた「北斎と抱一は面識があった」という仮説?が、一歩前進したような気がした。



<感想>

 展覧会のテーマも、展示作品には、自分には理想的な素晴らしい展覧会だった。

 当館所蔵の北斎作品は何度見ても素晴らしい。他にも、最近魅了されている魚屋や今回初めて注目した市川甘斎、敬愛してやまない国貞の作品なども見られて嬉しかった。

 特に感激した出展はやはり、【東都高名会席尽】、江戸の料亭には興味を持っているので、今後につながる鑑賞となるだろう。味の素食の文化センターには大昔に知人と行ったような気もするが確かな記憶はない。ぜひいつか足を運んでみたい。

 本日はこの後にも予定があり、やや駆け足での鑑賞となり、時計に追われるように館を出る。

 清澄通りを渡ると、江戸東京博物館入口へと続く道の桜が色づいて美しかった。すぐ近く刀剣博物館から見える安田庭園の紅葉も美しいだろう。ぜひ立ち寄りたかったが、涙を呑んでJR線両国駅へと急いだ。後期にはもう少し余裕をもって来館しようとの決心を固めながら。



by nene_rui-morana | 2019-02-11 15:37 | 東京スカイツリーの町から | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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