メアリー・カサット展

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[副 題] 印象派を代表する女性画家。[会 期] 2016年9月3日(土) [会 場] 横浜美術館


 印象派の展覧会は都内や隣接県では毎年のように開催されているが、女流画家が主役となる企画は多くない。初来日の作品も見られるというので、会場はやや遠いが足を運ぶことにした。

 会場に入ってまず目に入ったのは、主催者の挨拶パネルと1914年撮影のカサットの写真、メアリー・カサット(1844年~1926年)はピッツバーグ郊外の裕福な家庭に生まれ、画家を目指して21歳の時にパリに渡った。

 ※作品名後の()内は所蔵者、未記入は個人所蔵品です。



Ⅰ.画家としての出発

 スタートは1873年に制作された【バルコニーにて】(フィラデルティア美術館)、本展覧会を特集したテレビ番組でも紹介された。

【若い娘の頭部】(ボストン美術館)、【赤い帽子の女性】(ジェラルド&キャサリン・ピーターズ夫妻協力)と展示が続く。

 日本で江戸時代が終焉した1867年頃に撮影された肖像写真も展示されていた。





Ⅱ.印象派との出会い

Ⅰ 風景の中の人物

【庭の子どもたち(乳母)】(ヒューストン美術館)、【浜辺で遊ぶ子どもたち】(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)など、微笑ましい作品に思わず口元もほころぶ。

本章の展示はいかにも印象派らしく、モティーフも画風も日本人好みだった。

 【草上での縫い物】(ヒューストン美術館)、【マルリーの庭にて】(フィラデルティア美術館)、【折りたたみ椅子】(フィラデルティア美術館)と、エッチングも続いた。

 途中よりカミーユ・ピサロの作品が登場、【積藁のある黄昏】と【水辺牧牛】は当館が所蔵している。彼は全8回の印象派展に全て参加した唯一の画家だという。

 本章に展示されている作品が描かれた時期、1882年に、姉リディアが亡くなった。


Ⅱ 近代都市の女性たち

Ⅲ 身づくろいする女性たち

チラシに使われた【桟敷席にて】(ボストン美術館)は間違いなく、本展覧会を代表する逸品、自分も大変気に入った。舞台はコメディ・フランセーズの劇場、ヒロインの女性が来ているシックな黒の昼用の外出着からマチネ(昼興行)であることが分かることを今回初めて知った。画面半分を占める彼女はオペラグラスで一心に舞台を見ているが、奥の桟敷席の男性は彼女を見つめている。

 次いでエッチング作品が目に入る。【オペラ座の桟敷席にて(No.3)】(メトロポリタン美術館)と17【桟敷席の黒衣の女性、右向き】(アメリカ議会図書館)は、モノクロだが描かれているのは【桟敷席にて】と似たシーンで、モティーフや人物も似ていた。

 エドガー・ドガの作品も出展、【踊りの稽古場にて】はポーラ美術館所蔵、本展覧会のドガ作品は国内美術館が所蔵している。カサットと前述の姉リディアの姉妹を描いた【ルーヴル美術館考古展示館にて、メアリー・カサット】は当館所蔵である。


Ⅳ 家族と親しい人々

 兄夫妻や母・姉など、家族の肖像が並ぶ本章の作品は、やはり心に訴えるものがあった。油彩、パステル、エッチングなど、技法も多彩でそれぞれに良さがある。

 【眠たい子どもを沐浴させる母親】(ロサンゼルス都立美術館)は間違いなく、作者の代表作だろう。母の子への情感の強さが伝わってくる。時代を超えて存在する母子の一瞬が切り取られている。

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 【編み物をするカサット夫人、横顔】(アメリカ議会図書館)も気に入った。

 本章には他の女流画家の作品も展示されていた。同じく印象派の画家で年齢も近いベルト・モリゾ(1841年~1895年)の清らかなパステル画は心に残った。

 マリー・ブラックモンの名は今回初めて知った。

 同じく初めて知ったエヴァ・ゴンザレス(1849年~1883年)の【画家の妹ジャンヌ・ゴンザレスの肖像】には、師匠マネの影響が感じられる。

 カサット人関連年譜が、写真入りで展示されていた。彼女の生家は裕福で当然使用人はいたと思うが、家族の介護や看取りのため、制作活動を中断した時期もあった。それが原因というわけではないだろうが、彼女は生涯独身だった。美術史に名を残す大画家とは比較するべくもないが、労働・家事・病気の家族の看護等を自分の細腕でだけで担ってきた自分には、共鳴を覚える部分があった。

 当日のメモには「銅版画の技法」と書かれているが、会場に説明展示があったのか、カサットの銅版画作品に感動したのか、例によって当日から長期間が経過してしまったため、恥ずかしながら思い出せない。



Ⅲ.新しい表現、新しい女性

 ジャポニズム

本章にはタイトルのとおり、日本美術に影響を受けた作品が展示されていた。

【化粧台の前のデニス】(メトロポリタン美術館)などには、浮世絵の影響が感じられる。

カサットは<ドライポイント>という新たな技法にチャレンジし、この技法による作品が見られた。

【手紙】(アメリカ議会図書館)は女性の青い服や壁紙の柄が印象的、机上の手紙の下部には読めないが書き込みが見られた。やはり同館が所蔵する【湯あみ(たらい)】と【髪結い】には新たな作風が感じられた。


 カサットが影響を受けた日本の美術品

 他の印象派画家と同様、カサットも日本の美術を愛した。本章は日本人にはとても嬉しい内容だった。

 喜多川相説【秋草花図屏風】(フィラデルティア美術館)はカサットの姪が旧蔵していた作品、薄墨による没骨描やたらしこみにより、控えめな彩色で情感豊かな風景が描かれている。

 喜多川歌麿作【高嶋おひさ 合わせ鏡】は、コマ絵や団扇のロゴら注目した。

母子を描いた浮世絵はやはり心に響く。喜多川歌麿作【行水】は、国内に所蔵があるのか否か未確認だが自分はおそらく初見、しかし最も好きな歌麿画になりそうである。後方にかけられた着物の表現、子どもの持つ小さな手桶、間違いなく歌麿屈指の名画であり、本日見てきた作品と比較してカサットがこの作品を愛した理由が分かるような気がした。


Ⅲ シカゴ万博博覧会と新しい女性像

 1892年にコロンブスの大陸到達400年を記念したシカゴ万国博覧会が開催され、「女性館」のための壁画「現代の女性」を描いた。残念ながら壁画は現存していないが、本章にはそのための習作が展示されていた。

 【果実をとろうとする子ども】(ヴァージニア美術館)は本日特に心に残った作品の一つ、母の強さ、子の生命力、間違いなくカサット代表作の一つだろう。 

 カミーユ・ピサロ作【花咲くプラムの木】は姫路市立美術館所蔵、姫路を旅した時に見ただろうか。

メアリー・フェアチャイルド・マクモーズ作【そよ風】(テラ・アメリカ美術基金)はモダンで斬新、エリザベス・ジェーン・ガードナー・ブグロー作【羊飼いのダヴィデ】(国立女性美術館)は生きた人間がそこにいるよう

だった。


Ⅳ 母と子、身近な人々

1890年頃より後に描かれた作品が並ぶ最終章、本章のテーマも多くは母子や家族、見ていてほのぼのとした気持ちにさせられる。

【母の愛撫】(フィラデルティア美術館)は本日特に心に残る作品だった。

【赤い胴着の女性と赤ん坊】(ブルックリン美術館)鏡に写る後ろ姿の母の姿に浮世絵の影響が感じられた。

 【母親とふたりの子ども】(ウエストモランド・アメリカ美術館)はトンド形式の作品、頭を傾けた上の子ども、下の子を抱いた慈愛あふれる後ろ姿の母、気持ちがあたたかくなる作品だった。

 【モレル・ダルルー伯爵夫人と息子】(東京富士美術館)は20世紀初頭の貴族の母子を描いたもの、男児は女の子のようだったが、これは東西を問わず少し昔の上流社会ではよく見られる。この男児と世代が近い昭和天皇が幼少期に女児用の衣装を着ている写真を見た記憶がある。これを含め、20世紀に入って間もなく描かれた作品に登場する幼児は、年齢は祖父の兄くらいである。

ラストに近い【花瓶:子どもたちの輪】(プティ・パレ美術館)は、カサット唯一の絵付け作品とのことだった。



<感想>

 名前だけしか知らなかったメアリー・カサット、しかし作品もその人柄も大変魅力的で、本展覧会が生活圏内で開催され鑑賞できたことを天に感謝している。

 繰り返しになってしまうが、カサットは慈愛溢れる家族の姿を女性らしい繊細なタッチで数多く描いた。また他の印象派の画家と同様に日本美術を愛した。このような彼女が描いた作品を見ると、日本人の自分は心清らかになるように思えた。展示されていたカサットゆかりの歌麿画などの日本作品も素晴らしかった。

今後の展覧会で彼女の作品に再会できる日がくることを切望している。

なお当日は『美術情報センター所蔵資料に見るパリ万博と紹介された日本』が開催されていたが、恥ずかしながら、見られたのか全く記憶がない。こちらもいつか再公開される日がくることを熱望する。


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by nene_rui-morana | 2018-10-13 15:23 | 展覧会・美術展(西洋編) | Comments(0)

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