勝川春章と肉筆美人画

[副 題] <みやび>の女性像


[見学日] 2016年3月25日(金)


[会 場] 出光美術館



 自分は浮世絵に関しては圧倒的に版画派、もちろん肉筆浮世絵にも好きなものはあるが、多忙の折、表記展覧会には足を運ぶ予定はなかった。

しかし、太田記念美術館の展示がとても良く、相互割引もあったので、最近関心を深めている勝川春章の貴重な肉筆画を見てみることにした。

作品名の次に明記がないものは出光美術館所蔵です



Ⅰ.春章の達成 - 「美人鑑賞図」にみる創意

スタートは春章晩年の大作【美人鑑賞図】、本展覧会の目玉となる華やかな作品である。大きな画絹に思い思いに過ごす十一人の美人が鮮やかな色彩で描かれている。釘隠しの花菱紋から、この画の舞台は六義園、柳沢信鴻(吉保の孫)が古希の記念に発注したとの説が出されている。また、シカゴ美術館所蔵の鳥文斎栄之作【福神の軸を見る美人】と似ていることも指摘されている。着物や帯の柄、各種アイテム、猫、花瓶の花、等々、円熟期の春章の本領が凝縮した名品である。

 本章には、瀬名富三郎が1818年頃編纂した『諸家人名江戸方角分』が展示されていた。江戸各所に住む著名人を記号で表した職業などとともに収録したもので、春章ほか今日一般に知られている人物が登場する。ぜひ全頁を見てみたい。所蔵する国立国会図書館のデジタルアーカイブスなどを調べてみようと思っている。





Ⅱ.春章へと続く - 肉筆浮世絵の系譜、<大和絵師>の自負

「プレ勝川」ともいうべき本章の展示作品はとても華やか、見ていると心が高まるような気がする。

【邸内遊楽図屏風】(作者不詳)からは、庭先の群舞 街頭の見世物、屋内の宴など、賑やかで楽しい雰囲気が伝わってくる。

菱川師宣作【秋草美人図】、伝菱川師宣作【二美人図】、杉村伝兵衛作と伝わる【立姿美人図】、いずれもモデルが髪型も含めて似ている

 春章は二枚の【立姿美人図】の作者・宮川長春の孫弟子だった。この人の作品は過去の展覧会で見ているかもしれないが、心に刻んだのは今回が初めて、私塾したと思われる師宣とは違い、生涯肉筆画のみを描いた。【蚊帳美人図】の蚊帳の表現は絶妙である。

長春の【遊里風俗図】【四季遊楽図巻】は、春章が影響を受けたことがうかがえる作品だった。



Ⅲ.美人画家・春章の出発 - 安永・天明期、上方へのまなざし

本章の前半に登場する西祐信等は、名前だけは記憶がある。

【騎牛吹笛美人図】の作者・月岡雪鼎は初めてきく名、タイトルのとおり牛の背に乗り笛を吹く美人が描かれている。

 【人形遣遣】は手にした虚無僧の人形が印象的、作者・稲垣つる女の伝記はほとんど不明とのことだが、女性絵師の存在が確認できた意義は自分にとっては大きい。

 【福禄寿と二美人図】(千葉市美術館)は、宋紫石、春章、北尾重政の夢の共演、当時の浮世絵師の交流がうかがえる。宋の福禄寿はラフな線で淡色、対して二人の女性は均質な細い線を用いて強い色彩で描かれている。北尾重政は書家としても優れ、浮世絵では春章や歌川豊春とコラボし、歌麿や北斎にも影響を与えたという。


 本章の勝章作品も素晴らしい。

 【吾妻風流図】(東京藝術大学大学美術館)は、桜や柳・川面などバックの自然描写も秀逸だった。

【桜下遊女図】(東京藝術大学大学美術館)【柳下納涼美人図】【青楼遊宴図】、いずれもモデルと桜・柳・雪・バックとの絶妙のコンビネーションに魅せられる。



Ⅳ.春章の季節 - 同時代の浮世絵師たちとの交感

本章には、春章の他、過去の浮世絵展覧会でその名を知った磯田湖龍斎、窪俊満、歌川豊春が登場する。

タイトルのとおり、同時代の文化人間の交流が体感できる内容だった。


春章作【娘道成寺図】はやや大きめの人物が上半身のみ描かれている。

衣装やバックの精緻な描写、鐘に見立てたであろう布と背景とが重なった部分の表現、等々、注目点の多い作品だった。


豊春作【芸妓と嫖客図】はほろ酔いかげんで三味線で唱和する男女を描いている。様々な文字や意匠を散らした表装のデザインも実にいい。

【遊女と禿図】(太田記念美術館)の作者「尻焼猿人」とは姫路藩主・酒井家の次男、当時27歳の忠因、後の我が酒井抱一である。賛はモデルの高級遊女・花扇、文案は大田南畝という豪華キャストの共演作、抱一を知った当館でこの作品に出会えた喜びは大きい。

最近注目している窪俊満の【藤娘と念仏鬼図】には、山東京伝が賛を寄せている。



Ⅴ.俗のなかの<みやび>-寛政期、円熟と深化へ

 本章の出展は全て春章作品、円熟期の醍醐味が堪能できる、まさに集大成に相応しい展示だった。

【花魁図】(太田記念美術館)には、書体の異なる賛が添えられている。

 【見立江口の君図】(太田記念美術館)は、白象に乗る江口の君をドラマチックに描く。

 【婦人風俗十二か月 雛祭り】(千葉市美術館)は、雛壇絵が描かず、開けかけた箱から人形の手足がのぞく、実に心憎い。【婦人風俗十二か月 端午】(千葉市美術館)は、朱鍾馗と宝尽しの幟が立ち、若く美しい母親と二人子どもの姿が微笑ましい。大変気に入った。

 【雪月花図】(摘水軒記念文化振興財団)は百人一首に名を残す平安王朝の女官を描いている。すなわち、中宮・定子の問いかけに対して簾をかかげる清少納言、「源氏物語」の構想を練る紫式部、八重桜を見て有名な和歌を詠む伊勢大輔、それぞれが雪・月・花を見立てている。雪月花については「枕草子」の中にも才気あふれる女房のエピソードが伝えられている。



Ⅵ.<浮世絵の黄金期>へ - 春章がのこしたもの

 本章には、ポスト春章ともいうべき絵師の作品が展示されていた。鳥文斎栄之、喜多川歌麿、そしてもちろん葛飾北斎、間違いなく彼ら以前に、春章が存在する。

鳥文斎栄之作【蚊帳美人図】には、朱楽菅江が賛を寄せている。【吉原通い図巻】も見応えのある逸品、「すみだ北斎美術館」の目玉、【隅田川両岸景色図巻】を思い起こしながら鑑賞した。

 【更衣美人図】は重文に相応しい逸品、モデルの美しさ、着衣のデザインと色彩、間違いなく歌麿の代表作である。

北斎の【月下歩行美人図】には、山東京伝が賛を寄せ、「巴山人」の朱文重郭円印が見られる。

 【遊里風俗図】はラストに相応しい名品、蚊帳ごしの寝室の表現、寝具・火鉢、冬の朝を見る者に完璧に伝える。絵草子を読む後ろ向きの女性、手の先にまで表情がある。



≪感想≫

 最初に記したように「浮世絵は版画」というのが自分の信条だったが、本展覧会を見て肉筆浮世絵の良さも再認識した。

 デフォルメされた力士絵や役者絵はもとより、美人画も非常に素晴らしい。

 偉大なる北斎を育んだ勝川派の魅力を存分に堪能できた。本稿をまとめるにあたり、地元の図書館で図録を借りて読み、感動をあらたにした。

 今後も勝川派の作品を鑑賞できる展覧会が開催されることを切望してやまない。


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by nene_rui-morana | 2018-07-04 13:37 | 展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)