クラーナハ展示 2

4 時を超えるアンビヴァレンス-裸体表現の諸相

 本章には、クラーナハと言って先ず連想される官能的な裸体画と、それらにインスピレーションを受けたピカソやマン・レイ、マルセル・デュシャンらの作品が展示されていた。本コーナーでも版画作品は署名を探しながら鑑賞した。

漫画のキャラクターには作者特有の個性があり、一目でどの漫画家の作品なのか分かるが、著名な画家の肖像画の多くにもそれは当てはまる。本章の作品あたりから、クラーナハ特有の、艶っぽく蠱惑的でありながらどこかクールな、あの美女が登場する。





 【キューピット】(ウィーン美術史美術館)は、弓に署名が書かれていた。

 続いて、本展覧会の目玉の一つ【ヴィーナス】(シュテーデル美術館、フランクフルト)が登場する。想像していたよりは小さな作品だった。頭部や首回り・胸元には豪華な装身具をつけているが一糸まとわず、手にした透ける布がかえってエロティックな刺激を強調する。小悪魔的な微笑は男を誘っているようで、モデルとなった女性はその肉体と美貌を武器に奔放に振舞っていたであろうことが想像される、官能的な作品である。

少し先に展示されていた【泉のニンフ】(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)も同様に、豪華な装身具と薄布がエロティックさを強めていた。ベースはジョルジョーネの【眠れるヴィーナス】とのことだが、原点はティツィアーノの【ウルビーノのヴィーナス】にあるように感じた。なお、樹木に吊り下げられている弓と矢筒とその下のヤマウズラのつがいは、狩猟の女神ディアナの存在を暗示しているという。

 【アダムとイヴ(堕罪)】は、木版画(アムステルダム国立美術館)、油彩画(ウィーン美術史美術館)、共にイヴが積極的で、アダムからは情けない印象を受けた。

 

 f0148563_11571053.jpg数枚の【ルクレツィア】に続いて登場する【正義の寓意(ユスティティア)】(個人)も本日の代表作、描かれた裸婦は先述の2作とよく似ている。静かな強さ、凛とした美しさ、非常に心に残った。手にした剣と天秤は画面からはみ出さんばかり、以前はもっと大きかったものが後世カットされたのかもと思ったが、あらためて見直してそれはないかなという気がした。

 近くの壁一面にはこの作品の模写【ルカス・クラーナハ(父)正義の寓意1537年による絵画コンペティション】が展示されていた。100枚近い画の群?に圧倒された。








5 誘惑する絵-「女のちから」というテーマ

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 下階へと移動すると、そこには本展覧会の代表作が目白押し、興奮で胸は高まった。

 【へラクレスとオンファレ】(バンベルク財団、トゥールーズは)、玄人女たちにちやほやされて鼻の下を長くする中年の金持ちもしくは貴族が描かれている。

 小さな【不釣り合いなカップル】(ウィーン美術史美術館)も同様に、描かれているのは若い小娘と彼女の高価な指輪をプレゼントする老人、同じタイトルの次作では老人はより狡猾な表情で金のネックレスを手にし娘も負けずに彼の髭をいじっている。ヤコブ・ルキウス(父)の同タイトルの作品(当館)は版画作品、この主題が当時流行していたことがうかがえるという。

 【ロトとその娘たち】(ウィーン美術史美術館)は、かなり昔に見たアメリカ映画『天地創造』でストーリーを知った。神が罪深き街ソドムを焼き亡ぼすにあたり善良なロト一家にだけ事前告知?するが、ロトの妻だけがタブーを犯して振り返ったため塩の柱となってしまう。

 同じく【サムソンとデリラ】(アムステルダム国立美術館)も同タイトルのハリウッド映画をテレビで見た。本作は両名がまとった衣装のビロードの質感が素晴らしい。

 

大勢の人垣ができているのはもちろん、【ホロフェルネスの首を持つユディト】(ウィーン美術史美術館)、文句なしに本展覧会一押しの逸品、輝かしいオーラを放ち、見る者を魅了する。

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同じテーマを我がカラヴァッジョやクリムトなど多くの作品が描いているが、本作のユディットは描かれた時代の宮廷女性の豪華な装束や宝飾品をまとっている。ピンク色の肌、豊かな金髪、挑発するようにこちらを見つめる青い瞳、残酷なテーマながら魅きつけられてしまう。

文句なしに、クラーナハの、ヨーロッパの、世界美術史を代表する名画である。この一作で俄然、自分も心を鷲掴みにされてしまった。これまでに多くの美術作品に一目惚れしてきたが本作は、薬師寺金堂薬師三尊像、中宮寺半跏思惟像、菩薩半跏像(伝如意輪観音、京都府・宝菩提院順徳寺)、歌川国貞作【さかい町中村座楽屋之図】などと並んで、間違いなく自分の中でのベスト10に入るだろう。



6 宗教改革者の「顔」たち-ルターを超えて

  ※本章は下階と上階とに分かれていたのですが、本稿ではまとめて記載します

 これまで記してきたようにクラーナハは肖像画やカトリック関連の作品を数多く手掛けルターの政敵からも発注を受ける一方で、プロテスタント側の仕事も精力的にこなした。信仰よりは現実益を重んじた、自己実現のためには形振りかまわなかった、特権階級でなければ今日我々が思っているほど宗教に対する思い入れは厚くなかった、等々、様々な解釈ができるだろう。もとより自分にはそれを論究するほどの学識はないので、時代の変革期にあった多くの名画を残してくれたことに感謝している。個人的には、日蓮宗不授不施派の熱心な信者でありながら大徳寺の仕事もこなした我が国の長谷川等伯を連想した。等伯はクラーナハより少し後の年代で、やはり激動の時代を実力で生き抜いた。

 本章に展示されていたのは、ウフィツィ美術館が所蔵するマルティン・ルターと妻カタリナ・フォン・ポラの肖像、両名はクラーナハと面識はあったはずだから、その意味でも貴重な作品だろう。

 他には、【メランコリー(メレンコリアⅠ)】(当館)を含めたデューラーの版画作品複数、これらは多分再会だと思う。

 同じタイトルのクラーナハの個人所蔵の油彩画には、踊れ戯れる童子が多数描かれている。



≪感想≫

 【ホロフェルネスの首を持つユディト】は間違いなく、2017年中に見た中で最高の美術作品に入る。この一作でクラーナハは、自分の中で最も注目すべき画家へと昇りつめた。今後クラーナハの作品が出展される展覧会が生活圏内で開催されるなら、必ず足を運ぶことになるだろう。

 所蔵先の中には自分が訪問した都市、訪れた美術館も含まれており、大変懐かしく感じた。ただし残念ながら、訪問時はクラーナハについてほとんど知識がなかったため、展示の中にその作品があったとしても素通りしてしまったようで記憶はほとんどない。クラーナハ他多くの芸術家を知った今の自分がウィーン美術史美術館その他を訪問したなら、若い頃とは全く違った感想を持つだろう。いつか各所を訪れて現地でクラーナハの作品に触れる日が来ることにも希望を託したい。


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by nene_rui-morana | 2018-02-13 11:50 | 展覧会・美術展(西洋編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。


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