2017年 01月 14日
北斎の帰還-幻の絵画と名品コレクション- 後期
[見学日] 2017年1月7日(土)
[会 場] すみだ北斎美術館
「すみだ北斎美術館」開館記念の表記展覧会は、前後期で展示の入れ替えがある。前期は開館日に足を運び、貴重な機会なので後期もぜひ見学しようと決心した。
近年は正月2日からオープンする美術館等が増えており、正月ならではの催しもある。今年も冬休み中に一度くらい、どこかに足を運びたかったが叶わず、表記展覧会が2017年最初の鑑賞となった。
少々迷ったが、当館は「江戸東京博物館」や「たばこと塩の博物館」にも近く、今後はハシゴ鑑賞する機会もあると思い、年間パスポートを購入した。
まだ学校の冬休み中ということもあり、会場内は中学生以下も含めて、かなり混雑していた。
常設展示室は今後の来館時にも見られるので軽く流し、企画展示を中心に見た。
序章|北斎のイメージ
伊藤晴雨の展示は【貧しき或る日の北斎老】へと変わっていた。
柄澤齊作【肖像ⅩⅩⅩⅠⅩ葛飾北斎】のような現代アートも展示されていた。
第1章|北斎の描いたすみだ
【忠臣蔵討入】は大判3枚続きの迫力ある大作、北斎20代の頃の力作といわれる。
それから20年程度を経て描かれた【すみだがは】の中の船着き場は、多くの浮世絵に描かれ今も残る『三囲神社』と対岸とを結んでいた『竹屋の渡し』のものとも言われる。
同じ頃に描かれた【風流隅田川八景】は小さな作品だった。
【馬尽 駒止石・御厩川岸・駒形堂】は狂歌連が文政5(1822)年の午年に刊行した3枚続きの摺物、小さめながら現在の両国~浅草あたりが入念に描かれ、狂歌も添えられて(読めないのがくやしい)、自分好みの逸品だった。
【千絵の海 宮戸川長縄】はおそらく初見、「宮戸川」は隅田川の別称だということも今回初めて知った。この作品には幕府の御船蔵や薬研掘に架かる元柳橋が描かれている。
大のお気に入りの【絵本隅田川 両岸一覧】が頁替えで展示されていて大感激、レプリカでいいので手元に置きたい一作である。以前、墨田区役所内で北斎展が開催された時にこの作品のパネルが展示されていて大いに感銘を受け、当館開館後に見られるのではと期待していたが、今回は展示されていなかった。あのパネルは今どうなっているのだろうか。区内のどこかで公開しなければもったいない。似た装丁の【東都名所一覧】【画本東都遊】も自分好みの逸品で、頁替えで見られて大変嬉しい。
第2章|幻の絵巻-隅田川両岸景色図巻-
期待のコーナーに胸が高まる。
【隅田川両岸景色図巻】の前には、多くの人垣が出来ていた。毎度のことで恐縮だが、この作品の素晴らしさは自分の拙い文章では到底表現できず、現物を自身で見ていただきたいとしか記せない。隅田川両岸の観光スポットの他、人物や川の杭なども小さいが綿密に表現されている。ラストの吉原室内の鯛や盆栽の表現も素晴らしい。この作品が発見されて北斎や発注者・烏亭焉馬の生活拠点に程近い当地に帰ってきたのは、大変喜ばしい。次回の公開が今から待ち遠しい。今回と同様に解説パネルもあわせて展示してほしい。
本章は他に、烏亭焉馬が文章を、北斎が挿絵を描いた読本【仮名手本 後日の文章】【忠孝潮来府志】も展示されていた。
烏亭(立川)焉馬の名は、我が歌川国貞とのコラボ作品で知った。まだ勉強していないいので確信はないが、この作品が刊行された時に焉馬は既に他界しているので、国貞と交遊があった焉馬はおそらく二代目だと思う。
国貞は北斎より26歳年下で、当然ながら北斎の活躍を直に見ていただろうし、出生地も活動拠点も極めて近い。かつて自分は、北斎より1歳若い酒井抱一が常連だった吉原あたりで若き日の国貞と会っていたかもという推論をたてたが、同郷の北斎とも会っていたかもしれないと、展示に焉馬の名を見て感じた。
第3章|名品ハイライト
最終章も非常に見応えがあった。
【仁和嘉狂言 九月 じどうのおとり屋たい】【仁和嘉狂言 三月 赤坂やつこぎやうれつ】【浮絵 東叡山中堂之図】は、初見ではないかと思う。
5枚続の大作、生き生きと人々や調度類の精緻な描写など、見応えある私好みの名品である。
【総房海陸勝景奇覧】は、他の展覧会で実施していたように巨大なレプリカを作成して同時に展示してほしい。
【詩歌写真鏡】は前期とは違った【木賊苅】【雪中人馬】を展示、後者は雪景色がとても美しい。【亀】と並んで、縦長の北斎作品も味わいがある。
大好きな版本も展示、【富嶽百景】にはあの有名な最後の頁の跋文が展示されていた。
肉筆画も多くの秀作を残した北斎、【千鳥の玉川図】【鮟鱇図】【柳に燕図】などは【冨嶽三十六景】とは全く違った画風だが、こちらも大変素晴らしく、北斎の多才さが感じられる。【見立文殊図】の美人が乗る獅子は、自選北斎ベスト作品の一つ【日新除魔】の獅子が思い出された。
摺物も本当に素晴らしい。【休茶屋】は空摺りも見られた。書き添えられた狂歌や詞書等が読めなくて、本当に残念である。
展示室外では『よみがえる鮮やかな北斎肉筆画 須佐之男命厄神退治之図』がリレー放映されていた。今回復元され当館の目玉の一つとなっているこの大きな絵馬を描いた時、北斎が86歳だったという事実は驚嘆に値する。前期もこのミニ番組は放映されていたが少々騒がしくて音が聞き取れなかった。今回も時間がなくてすべて見ることはできなかった。次回ゆっくり見たいと思う。
東京スカイツリー周辺には、近年博物館が増えている。
もとからあった江戸博の他、たばこと塩の博物館、スカイツリータウン内の郵政博物館、当館、来年には「刀剣博物館」も移転してくる予定、江戸時代に多彩な文化が花開いたこの地に文化施設が増えるのは喜ばしい。
これからは、これらの施設をハシゴすることになるだろう。
本日はそのスタートとして、当館を出た後に江戸博へと向かった。
私も北斎が好きで、「北斎―富士を超えて―」展を見ましたので、「すみだ北斎美術館」の一連の記事を大変興味を持ってブログを読ませていただきました。北斎の傑作肉筆画「隅田川両岸景色図巻」も観てきましたが、吉原に向かう両岸の景色の陰影を用いた実景描写、遊郭での遊興場面の色彩感豊かな表現に大変感動しました。「北斎―富士を超えて―」展を見ても、北斎の芸術には、逆境に育って、周囲に逆らい、自己に鞭打って初めて形成された血みどろの力がありました。強固な自己を確立して到達した比類なき境地に達した高みが感じられました。
私も北斎の美術展を見て、その画号に沿って北斎の仕事と画風の変化を整理し、北斎の魅力を考察してみました、読んでいただけると嬉しいです。ご感想・ご意見などをブログにコメントいただけると感謝します。