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北斎の帰還-幻の絵画と名品コレクション- 前期

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 表記は「すみだ北斎美術館」の開館記念展、一世紀近く行方不明になっていた幻の絵巻の他、当館が所蔵する数々の名品が見られるとあって、期待も並々ではなかった。

 開館当日の2016年11月22日は火曜日だったが午後は休暇をとって現地に赴いた。

 常設展を見た後に2階の展示室へと移動する。


序章|北斎のイメージ

 最初のコーナーには、北斎の伝記として有名な飯島虚心作【葛飾北斎伝】やその袋などが展示されていた。参考図版として、よく知られている溪斎英泉作【北斎肖像】や、常設展示の北斎アトリエの元となった露木為一作【北斎仮宅之図】のパネルも見られた。

【葛飾北斎像】の作者・伊藤晴雨は近年その名を知った墨田ゆかりの画家、かなり刺激的な作品を多数描いているが、展示されている北斎の肖像画は細部まで丁寧に描写され味わいがある。

 注目したのは天保13(1842)年版【当時現在 広益諸家人名録】、『中島鉄蔵』(記載は旧字体)の名が見られる。これが今日でいうところの戸籍上の氏名、北斎の本名なのだろう。





第1章|北斎の描いたすみだ

 墨田とその地が生み育んだ北斎を満喫できるコーナー、作品からは当地に対する北斎の思い入れも伝わってくる。

 赤穂浪士と戦って壮絶な死を遂げた吉良家の家老・小林平八郎は母方の曽祖父であると語っていた北斎、本日は【仮名手本忠臣蔵 第十一段】が展示されていた。

 本章の作品は好きなものが多いが、過去に何度か見ていることと、今後も見る機会は多いだろうということで、時間の関係もあり一部を除いて流して見た。特にお気に入りは、【雪月花 隅田】【冨嶽三十六景・御厩川岸より両国橋夕陽見】、北斎は生地の景観を名作に残してくれた。

 

第2章|幻の絵巻-隅田川両岸景色図巻-

 いよいよ本展覧会の目玉、【隅田川両岸景色図巻】と感動の対面となる。

 まず目に入ったのは、この作品が掲載された明治25(1892)年の【浮世絵展覧会品目】、開催地は上野の松源楼で当時の所有者は酒田の豪商の一族・本間耕曹だったという。その10年後のフランスでのオークションの目録掲載を最後に行方が分からなくなり、100年を経て北斎の生地にお里帰りした。現物はガラスケースに展示され、壁にはパネルが展示されていた。

 北斎40代半ばで描いたこの作品は、文句なしに彼の代表作であり、江戸時代を代表する名作であることは間違いない。両国から吉原大門までが描かれ、作品手前側が現在の台東区、向かいが墨田区で、多くの浮世絵にも描かれ現在も残る隅田河岸の名所が描かれている。洋画の影響が見られ、人物も風景も実に素晴らしい描写で見応えがある。ラストは吉原楼閣の一室内、中央の丸顔の男性は北斎の自画像との説がある。文末の狂歌や解説から、本作品は落語中興の祖・烏亭焉馬の注文により、本作品は当館近くの本所相生町にあった焉馬の居宅「談洲楼」で描かれたことが分かる。

私は落語には詳しくないので、烏亭焉馬についても名前程度しか知らないが、落語史には欠かせない存在、同郷の焉馬とひと回り若い北斎とは厚い友情で結ばれていた。「立川」を名乗ったのは現在も残る居住地名にちなんだという。

 本日はその焉馬が書いた【市川團十郎家譜伝来之記】も展示されていた。自分には読めなくて残念だが、臨場感は感じられた。焉馬は団十郎の熱烈なファンで、戯号「談洲楼」は団十郎をもじったもの、本職は大工で「立川」を名乗ったのは現在も残る居住地名にちなんだという。贔屓にしていた団十郎の他に、四方赤良や朱楽管江らとも交遊をもった、当代きっての粋人だった。展示絵巻の作者・北斎と共に、発注者・焉馬も当地の人間であったことは注目に値する。巻末で焉馬は『東都滑稽作者』と名乗っている。


第3章|名品ハイライト

 次々と目に入ってくる北斎の名品に、心はさらに弾むが、時間の関係でこのコーナーの作品も、過去に見たものは流して見た。

 【吉原妓楼の新年】は5枚続の大作、生き生きと人々や調度類の精緻な描写など、見応えある私好みの名品である。

 過去に北斎の展覧会には何度も足を運び、刷りは別としても多くの作品とは再会となる。一方で、【鬼児島弥太郎 西法院赤坊主】【楠多門丸正重 八尾の別当常久】【詩歌写真鏡 少年行】      

【詩歌写真鏡 在原業平】【桜に鷹】などは見た記憶がない(一部は図録等で見ている)。いずれも【冨嶽三十六景】と同時期に描かれた北斎円熟期の逸品で、表現や色彩・その他全て素晴らしい。

 【画本狂歌 山満多山】は、併せて展示されている山姥と金太郎が描かれた袋に注目した。、同じモティーフで喜多川歌麿も逸品を残しているが、こちらも見事、版元・蔦屋重三郎の辣腕プロデューサーぶりがうかがえる。この類の史料は貴重であり、殊更に惹かれる。

 特注品にあたる摺物も名品揃いで、興奮で胸が騒いだ。


 【隅田川両岸景色図巻】は間違いなく北斎の代表作であり、江戸絵画史屈指の名品である。北斎のファンとしては、生地に御里帰りしたこと、今後も再会の機会が得られそうなことは、大変嬉しい。いつの日か、【北斎漫画】や【冨嶽三十六景】と並び称される日がくることを切望している。

 本稿もできれば年内にアップしたかったが、叶わなかった。

 開館日に訪問できた喜びは計り知れないが、かなり混雑していて少々騒がしくもあり、あまり落ち着いては見られなかった。

 いずれにせよ、今後はおそらく、江戸東京博物館と併せて訪れることになるだろう。


by nene_rui-morana | 2017-01-09 16:46 | 東京スカイツリーの町から | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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