裾分一弘先生ご逝去

 本日の朝刊に、美術史家・裾分一弘先生の訃報が伝えられていました。享年91歳。


 今は昔、自分が在籍した大学で、裾分先生は講義をもたれていました。他学科専門科目として卒業単位に認定されていたため、三年次に先生の「ルネサンス美術史」を履修しました。最大の目的は、小学生時代にテレビ番組で見て以来心酔していたミケランジェロの【ピエタ】、内容がこの作品に及び、スライド(現在ならパワポでしょう、時代を感じます)を用いて説明を受けた時は、興奮と感動で胸が一杯になりました。

 他には、レオナルドについて詳しく触れられました。【モナリザ】などの有名作品の他、手稿についても詳細に語られました。裾分先生は世界的なレオナルド研究者で、現存する素描類全てのレプリカを所有されているのは世界中で先生ともうお一方だけと10数年前の出演テレビ作品が伝えていました。その意味では自分は大学時代に大変貴重な作品の映像を見られたわけです。大学時代はまだ素描というジャンルの魅力がよく分かっていなかったので、現在あの講義を聴いたなら、また新たに感じるものがあるでしょう。

 配布されたレジュメには、レオナルドの自筆文なども掲載されていました。有名なヴァザーリの存在も先生に教えていただきました。自分はイタリア語は全く知りませんが、とても分かり易く解説していただいた記憶があります。

 先生は同世代の他の男性と比較して、かなり長身で足が長く、失礼な言い方ですが「かっこいい方だな。」と感じました。


 当時の我が家は経済的には大変苦しく、学費その他全般を自分のアルバイトで賄っていました。親の会社の手伝いもしなければなりませんでした。よって、先生の講義を全出席することはできませんでしたが、【ピエタ】の講義の時は諸般をやりくりして登校しました。

 出席をとる授業だったので、単位をとれれば充分と思っていましたが、年度開始時に決めていた【ピエタ】で書いたレポートは、四年間に履修した講義の中で最高の成績をいただけました。海外旅行は夢のまた夢だった当時、このレポートの最期に「いつの日かバチカンを訪れ、真っ先にピエタと対面を果たしたい。」と記しました。


 月日は流れ、様々な出来事により、新たにイタリア美術に対する多くの関心が高まりました。

先生の講義から10年ほど経過した時、イタリアを訪問し、長年の夢がようやく叶いました。

 2000年には再度「イタリア・ミレニアム旅行」を敢行し、ピエタとの再会と四大バジリカ巡礼を果たしました。帰国後、旅の感動を兼ねてかつてのご指導の御礼の手紙を書いたところ、丁寧な返書をいただきました。

 その後さらに、イタリア美術に魅せられつつ、今日に至っています。


 今年は日伊国交樹立150年目ということで、イタリア美術の展覧会が多数企画されています。多忙な時間をぬって、レオナルドやボッティチェリの展覧会に足を運びました。来月からはカラヴァッジョの作品が国内で公開されますが、今や自身の中で最高の地位にいるこの天才も大学当時は名前くらいしか知りませんでした。

 先生はどうされているか、お元気ならまたイタリア美術に関する思いを手紙に書いてお伝えしたいと思っていた矢先、訃報に接しました。

 日本とイタリアにとって記念すべき年に、近年真筆と鑑定されたカラヴァッジョの【法悦のマグダラのマリア】の来日決定にバトンタッチされるように天上に旅立たれたことに、あらためてイタリア美術史家としての裾分先生を感じました。


 若き日の懐かしい思い出を回顧しつつ、多くの感動を与えていただいたことに感謝しています。今後はイタリア美術に接する度に、先生の講義を思い出すことでしょう。

 つつしんで、ご冥福をお祈りいたします。

 


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by nene_rui-morana | 2016-02-22 12:31 | 芸術 | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。


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