趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。
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逆境の絵師 久隅守景

[副 題] 親しきものへのまなざし

[見学日] 2015年10月23日(金)

[会 場] サントリー美術館


 【納涼図屏風】(国宝)は高校時代に教科書か何かで見た記憶があり、比較的早くに知っていた。近年この作品を紹介したテレビ番組を見て、いい作品だと思った。「東京国立博物館ニュース2014年6-7月号」の表紙にも利用されていた。しかし、作者・久隅守景を記憶に留めるには至らなかった。

 今年に入り、千葉市美術館で開催されたドラッカー・コレクションの展覧会に足を運び(恥ずかしながら、未だアップ出来ていません)、注目した作品の作者が守景で、その後に当館で開催された展覧会で入手したチラシにより、ようやく二者が合致した。

 当然ながら、即座に見に行く決心をする。

当日は三井記念美術館で見た修験道の展覧会の興奮と感動が冷めやらぬまま、会場に向かった。


第一章 狩野派からの出発

 久隅守景の生涯については、生没年やその地も含めて、不明な点が多い。狩野探幽に師事して頭角をあらわし、探幽の姪・国を妻とし、壮年期は順風満帆だった。画名は探幽の名・守信からきているという。

 第一章は山水画を中心に展示がされていた。

スタートは出世作ともいうべき【知恩院小方丈下段の間 四季山水図襖】、全十八面のうち西側四面、人物や山水・木々・建物などのモチーフを丁寧に描いている。

 【四季山水図襖】(高岡市指定有形文化財)は加賀藩ゆかりの富山・瑞龍寺所蔵、おそらく、定規を用いて整然とかかれた建物の屋根や壁が印象的だった。この後に展示されている作品複数にも同様の表現が見られ、自分はここに守景の個性・こだわりのようなものを感じた。

 守景の【十六羅漢図】(神奈川・光明寺所蔵)は表情豊かだった。





第二章 四季耕作図の世界

 本章の最初は守景の師匠・狩野探幽の【四季耕作図屏風】(神奈川県立歴史博物館所蔵)、不勉強を証明することになるが、探幽は鷹や松ばかりではなく、こういうテーマの作品も描いていたのだなと思った。風景と人物の描写、空間の使い方など、素人の自分が見てもやはり素晴らしいと感じる。

 続く同タイトルの守景作品(東京国立博物館所蔵)は、師の画風を継承しつつも独自の世界を表している。通常とは逆に左から見ていくのもその一つ、その後も同じタイトルの作品が展示されていた。耕作風景の他、田起こしの牛、稲を運ぶ驢馬、猿回し、鶏などにも、心惹かれた。

 この章の彩色の【四季耕作図屏風】(個人蔵)は、闘鶏や鷹狩り・雉・犬・鷹などが描き加えられ、見る者を楽しませてくれる。

 千葉市美術館所蔵の【耕作図屏風】は、人物が大きめに描かれ、表情がより生き生きとしている。特に秀麗なのは驟雨のシーン、破れかかった傘に三人の大人、足下には子ども、走り込んで来る人、布を被った二人の子ども、野草の描写も素晴らしい。この作品の右隻は所在不明だが、写しがパネル展示されていた。現物が見つかればいいが、ぜひ現物大のレプリカを作成して両隻あわせて展示してほしい。


第三章 晩年期の作品-加賀から京都へ

 いよいよ待望の【納涼図屏風】(東京国立博物館所蔵)との対面となる。本日の見学は前日慌ただしく決めたので、この作品が出展されているか確認しておらず、不安だった。それだけに目に入った時の感激はひとしおだった。作品は想像していたより大きかった。夕顔の棚と実の瓢箪の表現、太く硬い線で描かれた男性、細くやわらかい線で描かれた女性、この作品は当時よく知られていた和歌「夕顔の咲ける軒場の下涼み男はててれ女はふたのもの」をテーマにしたとも言われている。

 最もよく知られた守景作品だが、本日展示されている他の作品の比べるとシンプルな画風という印象を受けた。個人的にはこの作品はとても好きだが、これだけでは守景の魅力は分からないとも思った。それだけに、今回この展覧会が見られて、本当に嬉しかった。

隣に展示された古礀明誉作【夕顔棚納涼図】(個人蔵)は、守景作品と同じテーマを、ラフなタッチで描いている。

 下の階へと階段で移動する。

 【賀茂競馬図屏風】は、各人の表情が豊かでまるで私が好きな絵巻を見ているよう、本展覧会で我流に「守景の特徴」とみなした≪長い直線≫がこの作品にも見られた。上賀茂神社は今年式年遷宮を迎えることもあり、いろいろなテレビ番組で現代の競馬の様子も放映されたので、記憶を呼び起こしながら見比べた。


第四章 守景の機知-人物・動物・植物

 正面に展示されていたのは【鍋冠祭図押絵貼屏風】(個人蔵)、解説によると「その年に関係をもった男性の数だけ鍋をかぶり、偽れば天罰が当たるという祭りを描いたもの」、左隻に描かれた複数の鍋をかぶる女性は下鼻と口元しか見えないが美人と分かり、身に着けた着物も美しい。対して鍋をかぶっていない右隻の女性はお世辞にも美人とはいえず着物も質素だが、自分は以前見た酒井抱一作のおかめを思い出し、愛嬌があって憎めないと感じた。この祭りが本当にあるのか定かではないが、この作品自体は楽しく見た。

 【花鳥図屏風】(重要美術品)は私が大好きなテーマの作品、伊藤若冲や抱一の同名作品とは違った描き方の花と鳥は、また別の魅力がある。全幅素晴らしいが、解説にあるように物思いにふけるように水辺の月を見つめる五月のミミズクは秀逸、十月の紅葉は複数の赤で描かれ、ため息がもれた。

 展示室へと入る。

 【都鳥図】(個人蔵)以降はお馴染みのモチーフの作品が続き、賛が入ったものもあった。

 いずれも個人蔵の【六歌仙画帖】【古筆手鑑のうち 太上天皇】【琴棋書画・士農工商図巻】や、【蘭亭曲水図屏風】(静岡県立美術館所蔵)には、守景が古典の高い教養を有していたことを伝えている。


第五章 守景の子供たち-雪信・彦十郎

 守景には画才を受け継いだ息子と娘がいたが、彦十郎(狩野胖幽)は素行不良により遠島となり、雪(清原雪信)は10代で同じ狩野派一門の絵師と駆け落ちした。守景の名がその画業にもかかわらずあまり知られていないのは、子供の不祥事の責任をとって身を引いたためとも言われる。最後の章には、その子供たちの作品が展示されていた。

 清原雪信は狩野派随一の女性画家となり、井原西鶴の『好色一代男』にもその名が登場する。展示作品は、女性らしい細やかな線の表現が印象的だった。

【唐子遊図】(個人蔵)の愛らしい唐子には、思わず口元がほころぶ。父ゆずりの横長の直線の表現も見られた。【龍頭観音・鶴・亀】(個人蔵)は、龍に乗り経典を広げた中央の観音が印象的だった。

 狩野派を学んだ絵師の中に、優れた画力を持つ女性もいたことを知ったことも、本展覧会の大きな収穫だった。思い起こせば、池大雅の妻・玉欄や、父のアシスタントをつとめた歌川国芳の娘の例もある。雪信は、キャラクターは全く違うが、個性の強さや画の実力では、後世の葛飾北斎の娘・応為に共通するものを自分は感じた。

 雪信は父より早く亡くなったらしい。

 カラフルな【鷹猫図屏風】(佐渡市立佐渡博物館)は彦十郎の作品、二度まで佐渡に流されて現地で生涯を終えたと言われるが、絵の注文はそこそこあったらしい。


≪感想≫

 例によってひと通り見た後、スタートに戻って気に入った作品を中心に見直した。

 これまでは名前も定かでなかった久隅守景だが、本展覧会で一気に自分の中での注目の絵師に駆け上がった。

以前から好きだった【納涼図屏風】はもちろん、複数の【四季耕作図屏風】と【花鳥図屏風】に心底魅了された。

 同時代の狩野派や浮世絵師の菱川師宣などに比べると知名度は高くないが、間違いなく守景は、江戸初期を代表する絵師であると確信した。本展覧会がきっかけとなって注目が集まり、伊藤若冲や江戸琳派のようにその作品が再評価されることを願っている。

 迷ったが、類似書籍が少ないので、図録を購入した。来月には展示が変わるということなので、必ずまた来ようと決心した。


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by nene_rui-morana | 2015-11-09 20:22 | 展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)
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