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<特別展>広重と清親

[副 題] 清親没後100年記念

[見学日] 2015年5月2日(土)

[会 場] 太田記念美術館


 表記特別展は練馬区立美術館の展覧会より先に見ていたのだが、記事アップは後となった。一つ失敗談があり、よくHPを確認せずに4月29日に現地に行ったらまさかの休館、唖然としたが瞬時に気持ちを切り替えて、予定になかった別の展覧会に変更、こちらも大変良く想定外のサプライズとなった。
 開館の事実をしっかりと確認し、5月2日にあらためて足を運んだ。
 小林清親には最近とみに関心が高まっており、没後100年記念の表記特別展の情報を得た時点で迷わず見学を決めた。やはり大好きな歌川広重の【名所江戸百景】とのコラボ企画ということで、期待で胸が弾んだ。
 当日はGW中ということもあり、なかなか混雑していた。最近の当館は、来館者が増えたためと思うが、以前のようにスリッパに履き替えなくなっている。



 今回の展示作品の多くは以前に既に見ているが、やはり見る度に新たな発見・感動がある。今回は同じ場所を描いた広重と清親の作品を並べて展示する方法がとられ、両者を比較しながら、興味深く楽しく鑑賞した。
 ※作品前の前のHは広重、Kは清親の作であることを表します。展示の順番を多少変えて記します。

 個人的に興味をそそられる清親の生地・現在の墨田区とその周辺を描いた作品は、特に入念に見入った。
 各所で何度か見たK【両国花火之図】は、遠近法と明暗表現を完璧に駆使した清親の代表作である。
 K【梅若神社】は、広重作品の一番人気【東海道五拾三次之内 庄野 白雨】と並んで展示されていた。両名とも画風は違うが、雨の描き方は天下一品と感じた。
 H【名所江戸百景 四ツ木通用水引ふね】とK【東京小梅曳船夜図】は、かつて人が船を曳き脇の土手を歩いて進んでいた様子を描いたもの、現在は曳舟川は埋め立てられて道路となっているが、駅名や学校名などにその名が残っている。
H【名所江戸百景 隅田川水神の森真崎】の桜は実に美しい。K【武蔵百景之内 隅田川水神森】は出前にデンと描かれた琵琶が斬新な印象を与える。
 H【名所江戸百景 亀戸天神境内】はこのシリーズで特に大好きな作品、名物の藤と太鼓橋のとりあわせが完璧なアングルと美しさとなって結集した逸品である。同じ場所を描いたK【武蔵百景之内 亀井戸天満宮】も、斜めからのアングルが実に良く、大変気に入った。
 
 H【名所江戸百景 鉄炮洲稲荷橋湊神社】と、K【武蔵百景之内 鉄炮洲高橋佃島遠景】とを見比べて、あらためて時代の移り変わりを感じた。
 K【武蔵百景之内 品川見越ノ月】は、本日特に気に入った清親作品、蚊帳の透かしの表現は絶妙、行燈の秋草のイラストも情緒を誘う。赤も良いアクセントとなっている。K【武蔵百景之内 赤坂きり畑山王うら山】に描かれている花は、芍薬か牡丹だろうか、清親作品にしばしば登場する傘をさした後ろ向きの女性が彼方に見られる。練馬区立美術館の展示解説によると、このシリーズは刊行時には古臭いと不評で途中で打ち切りとなったそうだが、現代を生きる私は大変気に入り、大好きなシリーズとなった。


 2階の展示室へと移動する。

 まず目に入ったのは、H【名所江戸百景 深川木場】、広重描く雪景色は見る者の心を和ませる。手前の傘には版元名が半ば隠れて書かれている。対するK【武蔵百景之内 深かわ木場】には傘をさした後ろ向きの人物が登場、河豚と酒を手にしている。
H【東都名所 上野不忍池】は咲き乱れる蓮が印象的、以前に見て同じ感想を持った記憶がある。H【東都名所 隅田川橋場の渡】やH【名所江戸百景 真崎辺より水神の森内川関屋の里を見る図】は、現在では考えられないが、かつてはここや更に北から筑波山が望めたことを伝えている。
ゴッホが模写したことでも知られるH【名所江戸百景 亀戸梅屋敷】は、カメラマンのように絶妙のアングルで一瞬を切り取った名品も以降は、お気に入りの作品が続いた。
 K【東京五大橋之一両国真景】は勇壮な三枚続の大作、隅田川は実際よりも大河に見える。昔、重慶に行った時に両河にかかるロープウェイの中で撮影した写真を思い出したが、これはサイト内では自分としては多くのアクセスをいただいている。清親は、電線や人力車など新時代の象徴と、遠方の富士や屋形船など旧時代から踏襲したものを、同時に描いている。
 K【海運橋雪景】に登場する後姿の女性の、黒い着物と赤い帯は見る者に強いインパクトを与える。
 【川崎月海】に【品川海上展望図】、清親の描く船には実に味わいがある。

 K【柳島橋本屋】に描かれているのは、近年は<逆さツリー>で有名になった墨田区内十間橋の近くにあった高級料亭・橋本、浮世絵にしばしば登場する柳島妙見こと法性寺に隣接し、関東大震災で焼失したという。
この後は、生地・墨田とその周辺、隅田川を描いた清親作品が続く。激動の幕末に幕臣の家に生まれ、時代に翻弄される青年時代を過ごした清親が、いかに生地に思いを寄せていたかがうかがえ、感銘深い。
 【小梅曳舟通夜景】【亀戸梅屋敷】【亀井戸藤】等々、関東大震災と東京大空襲で激変する以前の墨田・江東の景観を伝える詩情豊かな作品に魅了された。溜息が出るほど美しい【武蔵百景之内 深川不中き弁天】は、水鳥が泳いだ後の池面の表現が心に残った。【不忍池畔雨中図】では、清親も広重と同様に蓮を描いている。【今戸橋茶亭の月夜】の水面のゆらぎ・そこに映る影、清親の水面の描写は他の追従を許さないものがある。

 清親が特に思いを寄せていたのは、自身が生まれた御蔵屋敷に程近い両国であることが、この地を描いた複数の作品から伝わってきた。清親にとって両国は、広重にとっての日本橋のようなものだったのだろう。清親が描いた両国の夕刻の景観や夜景は本当に味わい深い。
 両国の千本杭は、複数の清親作品に登場する。【武蔵百景之内 大川端百本くい】は、その杭に署名と落款が見られる。

 その両国を、明治14(1881)年に大火が相次いで襲い、一面が灰燼に帰した。清親は自身の家を失いながらも、「宇治拾遺物語」や芥川龍之介の小説がえがく絵師に共通する絵師の執念をもって、大火の様子を【明治十四年一月廿六日出火 浜町より写両国大火】【明治十四年二月十一日夜大火 久松町ニ而見る出火】の力作で伝えている。この年は政界でも「明治14年の政変」が起こり、激動の年だった。
 その3年後の作品【武蔵百景之内 目黒いゑんひう蔵】は、のどかな中にも火薬庫が描かれ、富国強兵の時代の到来がうかがえる。

 2階展示室の、ガラスケース内に展示された広重作品にも、熱心に見入った。


 地下の展示室へと移動する。

 明治も20年代に入り、時代の移り変わりを受けてか、清親の画風も変化する。今日では小林清親の代名詞ともなっている「光線画」を描いた期間は実は10年足らずで、その後は新聞の諷刺画等に新たな道を見出していく。本特別展には出品されていないが、練馬では最近大量に発見されたという肉筆画が展示されていた。
 
 <日本名勝図会>シリーズは、浮世絵最終期に描かれた美しい作品、絵葉書を思わせる。個人的には蒸気船が描かれている【清見潟】や、【猿橋】などが気に入った。

 花や動物などを描いた作品が多く展示されていた。
第一回内国勧業博覧会に出品された【猫と提灯】は間違いなく清親の最高作の一つ、今年の自分にとっても大ヒットとなった。知らずに見たら版画作品とは分からないであろう精緻な表現に、ただただ圧倒され、夢中で見入った。
 【柿に目白】も、心に残った。

 展示を締めくくるのは清親の諷刺画、このジャンルにも大いに関心を寄せているが、光線画に比べると関係書も展覧会で見る機会も少ないので、大変嬉しい内容だった。今後できれば現存する全作品を見たいと思っている。一部の作品からは、「忠臣蔵」などの芝居の再勉強の必要性を痛感させられた。
 【清親法夢痴 東京深川洲崎】の黒貝と蛸は、それぞれ「国会」と「黒田清隆」を表していると言われる。


≪感想≫
 近年、各所で小林清親の作品を見る度に魅了されてきた。しかし、展覧会でその作品が何点か出品されていても、清親を主役にした企画展はなかなか実現されなかった。
それだけに、本特別展は練馬の展覧会と共に自分にとっては大変嬉しい内容であり、感激は計り知れない。予想にたがわぬ素晴らしい内容で、受けた感動も並々ではなかった。
 両展覧会とも展示替えがあったが、年度の切り替えに父の一周忌の準備等が重なり、残念ながら全てを見ることはできなかった。これからのこの時期は、同様のことが毎年続くだろう。
<特別展>広重と清親_f0148563_16202457.jpg 本特別展では、やはり大好きな広重の<名所江戸百景>とコラボだった点も、大変喜んでいる。江戸東京博物館の<名所江戸百景>の企画展を見ることができなかったので、猶更そう感じる。清親にとって広重は、心の師であると共に、超越したい存在でもあったであろうことがうかがえたように思う。
 二つの特別展を通じて、清親について新たに学んだことも多い。没後100年の今年は新たな関連書も刊行されているので、再度清親とその作品についてしっかり勉強し、再会?に備えたいと思う。
 間違いなく、小林清親は近代を代表する偉大な芸術家である。いつかまた同様の展覧会が開催されること、清親とその作品が学校教科書等で院展の画家・作品と同等の扱いを受ける日がくることを、切望してやまない。
 なお本論とは関係ないが、最近携帯撮影した複数の展覧会のポスターのピンぼけに、加齢による視力の衰えを痛感させられている。
by nene_rui-morana | 2015-06-28 16:22 | 2015年 | Comments(0)

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