川瀬巴水展-郷愁の日本風景-

[副 題] 川瀬巴水生誕130年

[見学日] 平成26年1月3日(土)

[会 場] 日本橋髙島屋8階ホール


 正月の新聞に表記展覧会の広告が入っていた。川瀬巴水には近年、複数の展覧会でその作品に接する機会があり、とみに魅せられている。今年は喪中で派手なことは慎まねばならず、手軽に行ける近場のデパートが会場でもあるので足を運ぶことにした。
 当日は上野の東博を見学した後に地下鉄で現地に移動した。上野に滞在した時間が想定していたより長くなり、予定よりやや遅い到着となった。
 一度の買い物金額5,000円以上で招待券が貰えるということなので、商品券を購入してゲット、8階に上がって軽くお茶をした後に会場に向かい、前回はなかった入口脇のロッカーに手荷物を預けて見学を開始した。

 デパートでの展覧会ということで、正直、さほど大規模なものを想像していなかった。
 しかし予想に反して、展示作品は200数十枚、他に写生帖なども出展されていて、非常に見応えがあった。詳細は記し忘れてしまったが「浪漫図案」も展示されていたように思う。会場内も多くの見学者でかなり混雑していた。




 室内の巴水の年譜を読んで思わず息を呑んだ。彼が生まれたのは明治16(1883)年の5月18日、誕生日は私と同じである。既に新暦となっているので、誕生日は完全に一致する。思わぬ縁に感動しながら見学した。
 巴水は幼少期から絵を好んだが、画家の修行を始めたのは27歳と遅かった。このあたり、やはり好きなカンディンスキーとの共通点を感じる。
 やがて同門の伊東深水の作品に感化されて木版画の制作を開始、各地を旅してその地の風景を作品に描いた。当時衰退していた版画浮世絵の復興を目指していた渡邊庄三郎がバックボーンとなった。
 大正12年の関東大震災で、巴水は自宅と描きためていた写生帖を、渡邊は店舗を失った。しかしこの痛手から立ち直り、100年近い後の時代を生きる我々を魅了する多くの作品を残した。

 巴水はしばしば「昭和の広重」と称されるが、自身はこの評価をあまり好んでいなかったようで、「自分は小林清親を好む。」と発言している。【雪の白ひげ】【雪に暮るゝ寺島村(駒形河岸)】などは、清親が生地・現在の東京都墨田区を描いた作品に感化を受けて誕生したものなのだろう。
 とはいえ、巴水が広重の作品に影響を受けているのは間違いないと、作品を見て感じた。【東海道五十三次】や【名所江戸百景】を思わせる画風の作品が多数あった。<東京二十景><東京十二題>といったシリーズ名からも、それがうかがえる。

 私が今回、特に魅力を感じたのは、水鏡に映るモチーフ、ぼかしやグラディエーション、さざなみ、雪などの描写だった。カメラマンのように一瞬を捉え、しかし写真とは全く違う独自の画風で情趣あふれる作品を描いた。作品には、あらゆる季節、天候、時、風景が見られるが、空や水・明け方や夕刻および夜の風景などは特に味わい深かった。
舞台となった場所の中には自身もかつて訪れた土地もあり、懐かしく感じた。行ったことのない場所は、映画や書籍の記憶と重ねて見た。失われたかつての景観を鑑賞する本展覧会は、まさに時空旅行だったと感じている。

 本展覧会の展示はとても多く、良い作品が目白押しで、心に残った作品すべてを記すことはとてもできなかった。
 現在は訪問が困難な地を描いた【平壌の春(牡丹台浮碧楼)】や、天災や戦災で失われる前の【五浦の月】【名古屋城】、激変する以前の景観を伝える【日本橋(夜明)】【浦安の残雪】【初秋の浦安】などは、歴史史料としても貴重だと思う。
【京都知恩院】の千社札には、渡邊庄三郎や彼の会社の従業員の名が見られた。
 「塩原新宿」の副題付も含めた複数の【湯宿の朝】は、窓の手摺にかけられた手拭いが印象的だった。屋内からのアングルで描いた【吉野蔵王堂】の暖簾?も心に残った。
 番傘を持った人物は巴水が好んで描いたモチーフ、多くの作品に見られた。
 3000万枚という巴水最大のベストセラーとなった【芝増上寺】は、私も特に気に入った。鮮やかな赤と雪の白の対比も、傘を持つ女性の紫色の着物も、実に美しい。
 絶筆となった【平泉金色堂】は文句なしに近代を代表する逸品だと思う。多くの試作を描きながらも未完に終わったこの作品は、渡邊庄三郎らによって完成・発表された。2011年1月に自身がここを訪れてほどなく大震災が発生し、同時に訪問した近隣地区は甚大な被害を受けた。その年の6月に父が入院し、自身の人生も大きく変わった。このような自分の経験を重ねて見ると、更に感慨深いものがある。


 今やお気に入りの芸術家の一人となっている巴水の作品を一度にたくさん見ることが出来た喜びは計り知れない。全ての作品から、味わい深く心癒されるオーラが発せられていた。
 多くの課題を抱えての年明けとなったが、本展覧会は心の支えとなるだろう。
 見学を終えた後に、同じフロアーにあった中華レストラン「糖朝」で夕食をとる。香港に通いつめていた頃は現地で必ず足を運んでいたが、いつ再開できるのか見通しがたたない。先日所要で訪れた表参道にあった店舗は既に閉店していたので、自分にとってはサプライズ、こちらも思い出を重ねつつ、懐かしい味を堪能した。
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by nene_rui-morana | 2015-01-11 15:13 | 展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

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