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浮世絵 Floating World 第1期

[副 題] 珠玉の斎藤コレクション

[会 期] 2013年6月22日(土)~7月15日(月・祝)

[会 場] 三菱一号館美術館


 2012年に川崎の<砂子の里資料館>を訪れた時、係の方が「来年に丸の内で大々的な展覧会が開催される。」と話された。以来、ネット等で情報をマメにチェック、第3期まであり各々の会期が長くないと知った時も、迷わず全てに足を運ぶ決心をした。
 第1期見学に赴いた日は炎天下、東京駅構内で昼食をとって現地に向かったが、さほど遠くないのに到着した時は汗だくで、売店で少し涼んでから見学を開始した。

 まずはエレベーターで3階に上がり、歌麿のカーテンをくぐって会場に入る。最初に展示されていたのは初期の浮世絵作品だった。
 スタートは菱川師宣の作品、【韃靼人狩猟図 鹿・猪・狸】などはモノクロ作品だが、生き生きとしてマンガチックでユーモラス、「鳥獣人物戯画」を思わせ、どれも気に入った。
 西村重長作【げんじ五十四まいまうち 第二十番 朝顔】は、横長紙の中のハート形の?のフレーム内部に物語の一節が描かれている。枠の外には鶴や桜のデザインも配置されていた。あらためて、学生時代に怠けてくずし字が読めないことを後悔させられた。
 極端に縦長の奥村政信作【風流久米仙人】は、ユーモラスな画風が笑える。同じテーマで我が河鍋暁斎や他の絵師も作品を残していたと思う。
 続いて、初期の鳥居派の役者絵を堪能した。
 歩みを進めると、そこに広がるのは夢の鈴木春信ワールド、季節・風俗・古典など、春信の作品からは雅びな日本の文化が感じられる。特にケース内に展示された【風流やつし七小町】シリーズは非常に見応えあり、コマ絵も印象的だった。【風流やつし小野道風】は、柳に蛙・水と役者?が揃っていて構図も完璧、主役が美人というのも気がきいている。【風流やつし蘆葉達磨】は水面に映った達磨が印象的だった。




 さらに進むと、春信以降の絵師の美人画と対面、主に遊女を描いた肉筆美人画の作者は師宣以外は初めて聞く名だが、あでやかな着物が心に残った。
 礒田湖龍斎の【風流多賀袖三夕】や北尾重政【かゐこやしなひ草 第二】なども、書かれたくずし字の詞書が読めず残念に感じた。
 ケースの中には、19世紀に外国で出版された浮世絵研究所やパンフレット?などが展示されていた。

 鳥居清長描く、あの八頭身の美人にも、近年とみに魅了されている。【女湯】は覗く男性まで、当時の湯屋の様子を如実に伝えている。子どもたちの姿が愛らしい【子宝五節遊】は見ていて思わず口元がほころぶ。ロゴマークはかの蔦屋、他の絵師の同じテーマの作品を別の展覧会で見た記憶がある。【江之嶋】は波の表現や駕籠の上の荷物が印象的だった。
 【俳風柳多留】は、衝立の絵が吊り風鈴?が心に残った。タイトルのとおり、書き添えられているのは川柳だろう。最近、仕事の関係で江戸時代の川柳に接する機会があり、大いに関心をそそられているので、あらためて見直してまた感じるものがあった。
 
 喜多川歌麿の作品からは、毎度のことながら匂い立つような艶麗なオーラが放たれている。
 【唐美人】は隷書風の署名も気に入った。【両国橋橋爪】【両国川開きの景】では、北斎や国貞とは違った独自の画風で江戸の名物を描いている。
 お馴染みの【青楼十二時】シリーズも登場、【続 卯ノ刻】は、遊女が持つ着物の裏側に描かれた達磨に注目した。【恵比寿講】は私が好きなテーマ、忙しくも楽しげな人々、恵比寿人形とその前の御供え(鯛、海老、神酒など)、見ているこちらも楽しくなる。
 本展覧会を見学した頃、NHKの朝の連続ドラマ「海女ちゃん」がヒットしていて(自分は見ていなかったが)、【汐汲み】【鮑取り】はまさにこのドラマの江戸時代版だった。
 【女織蚕手業草】は合計で十二枚続にもなる大作、蚕を育て最終的に絹織物が出来るまでの過程を写実的かつ格調高く生き生きと描いている。群馬県にある義弟の実家や友人の田舎では「昔はお蚕様を飼っていた。」という話を思い出し、感銘を受けながら念入りに見た。見学から本稿アップまでに一年以上が経過してしまったが、この間に「富岡製糸場」が世界遺産に認定され、あらためて本作品を見ると殊更に感じるものがある。


 渡り廊下?から見る窓外の中庭は、まばゆい緑、前回に当館を訪れた時はクリスマスのイルミネーションが美しく多くの人が携帯で撮影していた。
 屋外は酷暑だが、見学中は館内が少々寒く感じた。多くの他館でも同様の感想を持ったが、作品の保護の関係でこれはいたし方ないという。この日はストールの貸し出しもされていた。


 2階の展示コーナーへと移動する。
 我が国貞の師、初代・歌川豊国の美人画が目に入る。タイトルは歌麿作品が有名な【高しまひさ】【なにわ屋きた】だった。
 鳥高斎栄昌や栄之など、その名を知ってからの時間はまだ浅いが関心をそそられている絵師の作品も展示されていた。栄昌の【角たまや内 花むらさき 若むらさき 小むらさき】【丁子屋昼見世 みやさま せんさん とよすみ】には歌麿の影響が感じられ、その歌麿も描いた【扇屋内 花扇】は白象に乗っていた。
 複数の絵師が描く「金太郎」、私が好きなモチーフでもある。

 北斎の双六の掛物を見ながら、歩みを進める。

 展示は美人画から役者絵へと変わる。
 一筆斎文調の【初代市川弁蔵】【二代目市川高麗蔵】は背景の黒が強いインパクトを与える。
 春草や春好ら<勝川派>の作品にも、近年とみに魅了されている。お馴染みの東洲斎写楽の作品と共に、じっくりと見た。
 そして初代・豊国、役者を粋に描いた豊国は現役の頃は写楽より人気があったという。画風は弟子の国貞よりは、やや可愛い印象を受けた。最近注目を集めている歌川国政の作品も見られた。
 会場にはまた、アリスティド・ブリュアンを描いたロートレックのポスターも展示されていた。こちらには過去にこの会場で既に対面している。

 テーマは「忠臣蔵」へと変わる。絵師それぞれが独自の画風でこの人気テーマに挑んでいる。
 国貞の【忠臣蔵第十一段目夜討義士 搦手 廿三人之像】【忠臣蔵第十一段目夜討義士 追手手 廿四人之像】は、人数は全部数えなかったがタイトルが示すとおり、四十七人を持ち物などを変えて多彩に描き分けている。

 本展覧会も最後まで、裏切られることはなかった。
 初代・豊国は、雄大な【江戸両国すゞみの図 五枚つゞき】で、様々な職業や階層の人々を多彩に描き分けている。衣装から役者と推察される人物も見られる。画面手前の「大坂下り」の荷物や屋台の表現なども心憎い。【両国花火之図】は横三枚に縦二枚の珍しい構成、橋脚や屋形船の柱などに署名や版元のロゴが、提灯には「歌川」と書かれている。愛してやまない国貞の原点を見る思いだった。
 国貞の【紅毛油絵尽 永代橋】は、タイトルのとおりフレームが西洋風、制作は天保年間とのことだが稀代の絵師は時代の流れをいち早く感じ取っていたことがうかがえた。


≪感想≫
 本展覧会が開催された頃、父は体調を崩して何度か入院し、複数の医師のオピニオンを聞いた後、10月に手術を受けた。
 このように身辺が落ち着かない時期で仕事も忙しかったが、諸般をやりくりして会場に足を運んだ。
 記事のアップまでに長期間が経過してしまい、残念ながら細部の記憶が不明瞭になっているが、不遇な時期ゆえに得られた感激は大きく、当日のメモには「会場を出るのが名残惜しい。」
と書かれている。
 自分にとって、特に忘れることのできない展覧会となったと感じている。
by nene_rui-morana | 2014-10-04 20:27 | 旧展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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