2014年 08月 09日
超絶技巧!明治工芸の粋
[見学日] 平成26年6月29日(日)
[会 場] 三井記念美術館
6年前の≪皇室の名宝≫展で帝室技芸員の妙技に触れた頃から、俄然「超絶技巧」というものに魅せられている私、よって、かなり以前に某美術館で標記特別展のチラシを入手した時点で迷うことなく見学を決心した。
父の急逝で一時は諦めかけたが、何とか時間を作って足を運ぶことができた。
当日は墨田区の郷土文化史料館を見学した後、地下鉄で最寄駅まで移動し、日本橋を渡って会場へと向かった。数日前の雨に加えて当日の猛暑で界隈には少し臭いがただよっていた。広重の浮世絵を思い浮かべるにつけ、橋の上に高速を通したのは正解とはいえなかったと感じる。次のオリンピックのための街づくりは綿密に計画をたてていただきたい。道中に金券ショップがあったので他の展覧会のチケットを購入した。
会場に入ると、日曜日ということもあってかかなり混雑していて、ロッカーに大きな荷物を預けることはできなかった。
本展覧会に協力している京都の<清水三年坂美術館>へは、京都旅行の際に一度だけ立ち寄った。当館の所蔵作品の何点かは過去の展覧会で見ていると思う。
展示室1
スタートは並河靖之作【花文飾り壺】、漆黒に藤や菊があしらわれた、並河らしい七宝だった。最初から御贔屓の作品が登場して幸先が良い。
【自在海老】の山崎南海、【四季草花蒔絵提箪笥】の赤塚自得、【花見図花瓶】の錦光山、【花鳥図香炉】の鹿島一谷(二代)は、いずれも初めて聞く名だった。
【羊】の石川光明と【蓮葉に蛙皿】の正阿弥勝義の作品には過去の展覧会で対面済み、本日の再会は殊更に嬉しかった。
もう一人のナミカワこと濤川惣助の【藤図花瓶】は、グレー地に藤の白い花びらがあの無線七宝で完璧に表現されている。有線の青い花びらとの対比も見事で、実に美しく心洗われる名品だった。
展示室2
視界に、本日の最大の目玉作品が入ってくる。
安藤緑山作【竹の子、梅】はテレビ番組でも紹介された牙彫・木彫の逸品、多くの人が食い入るように見入っている。毎度のことながら、作品の素晴らしさは自分の拙い文章では表現できない、ご自身で見ていただきたいとしか記せない。何時間見ても見飽きないだろう。竹の子の皮の毛先に梅の葉、人間技とは思えない完璧な造形に感嘆させられた。
展示室3 壁面
このコーナーに展示されているのは複数の【刺繍絵画】、これを針と糸で表現した技には驚嘆の一言しかない。
展示室4
大きな展示室に相応しく、展示もバラエティーに富んでいた。刺繍絵画、七宝、金工、牙彫・木彫、お馴染みの芸術家、初めて知る人、かなり混んでいたので比較的人垣が少ない箇所から見ていった。
この展示室にも並河靖之の作品があり大感激、【桜蝶図平皿】とは再会となる。濤川惣助の作品も出展されていた。どちらか選べと言われれば並河の有線七宝の方がお気に入りだが、絵画と見まごうばかりの濤川の無線七宝もとても好きである。【月下牡丹に鳥兜図香合】はモチーフも私好みだった。林小伝治の【四季草花図花瓶】はタイトルのとおり琳派絵画を彷彿とさせる七宝だった。並河らと同時期にその名を知った安藤重兵衛の作品もあった。
金工でもお馴染みの面々が見られて大感激、海野勝珉作【花鳥図対花瓶】【蘭陵王】は圧巻、正阿弥勝義【群鶏図香炉】【麟鳳亀龍香炉】は小ぶりながら精緻な造形に魅了された。
竹内栖鳳が下絵を描いた【刺繍絵画】は多分以前に見ていると思う。
中央特設ケースには、安藤録山の牙彫・木彫作品が展示されていた。本物と見まごうばかりの完璧な彫技と彩色には言葉が出ない。展示作品の周囲を何度も廻り、繰り返し繰り返し見た。本日対面した録山の作品はどれも素晴らしく、強いインパクトを受けた。最大の目玉は展示室2の【竹の子、梅】だが、個人的にはこのコーナーの【蜜柑】の方により深い感銘を受けた。知らずにそこに置かれていたら、迷わず手を伸ばしてしまうだろう。人間という生き物はここまで可能性をひめた存在なのか、文章力のない自分には感動と驚嘆という言葉でしか表せない。
これだけの仕事を残しながら、録山の生涯は謎に包まれており、生没年も定かではなく弟子の存在も確認できないという。昭和中期までは存命していたとのこと、この稀代の名工について新たな事実が解明されることに期待を寄せている。
展示室5
このコーナーには、自在や牙彫・木彫、刀装具などが展示されていた。
石川光明は【可美真手命】【老人二童】で、海野勝珉は【鳳凰花桐文銀装兵庫鎖太刀拵】で、ここでも私を魅了してくれた。
後藤一乗作【菊唐草文金太刀拵】は金の金具の繊細な細工に驚嘆させられた。
展示室6
狭い展示室は多くの人で大混雑していた。このコーナーには、鍔などの刀装具や印籠が展示されており、ここでも人垣の合間から正阿弥勝義や海野勝珉の作品を必死で見た。
大感激したのは、柴田是真の印籠に作品に対面できたこと、彼の作品にも人を惹きつけてやまないオーラがある。
展示室7
展示もフィナーレに近づく。ラストを飾るのは、漆工と薩摩、ここでも是真は私を魅了してくれた。
きらびやかな【鍔に煙管図提箪笥】(無銘、芝山細工)、川之辺一朝作【秋景蒔絵飾棚】は、世紀末のジャポニズムを今日に伝える逸品、自国の先人が西洋をうならせた妙技を持っていたことを誇りに思った。
<感想>
繰り返しになるが、帝室技芸員に代表される19世紀日本の超絶技巧には近年とみに魅せられており、その意味では本展覧会はぜひ見ておきたかった。予想にたがわず素晴らしい内容で、感動は語りつくせない。本日の展示作品の作者全員が横山大観と同様に認知・評価されるべきだとの考えを新たにした。
村田理如氏には心底感謝しており、今後もぜひコレクションの数々を見せていただきたいと切望する。将来的には平成館規模の展示会場で「帝室技芸員と明治の超絶技巧」のようなタイトルの大展覧会が開催されてほしい。
本当はもっと長時間見ていたかったが、会場内が混雑していて少々疲労感を覚え、翌日も仕事なので、涙を呑んである程度の見学で切り上げた。自分が現在のような状況に置かれていなければ、再度足を運んだかもしれない。
自室の書棚は限界に達しているが、感動を留め再勉強もしたいので、図録を購入した。
会場近くにはウィンドウショッピングに立ち寄りたい箇所がたくさんあるが、それは後日にまわすことにし、三越の地下で夕食の弁当と好きなパンを買って家路についた。
[会 場] 三井記念美術館
6年前の≪皇室の名宝≫展で帝室技芸員の妙技に触れた頃から、俄然「超絶技巧」というものに魅せられている私、よって、かなり以前に某美術館で標記特別展のチラシを入手した時点で迷うことなく見学を決心した。
父の急逝で一時は諦めかけたが、何とか時間を作って足を運ぶことができた。
当日は墨田区の郷土文化史料館を見学した後、地下鉄で最寄駅まで移動し、日本橋を渡って会場へと向かった。数日前の雨に加えて当日の猛暑で界隈には少し臭いがただよっていた。広重の浮世絵を思い浮かべるにつけ、橋の上に高速を通したのは正解とはいえなかったと感じる。次のオリンピックのための街づくりは綿密に計画をたてていただきたい。道中に金券ショップがあったので他の展覧会のチケットを購入した。
会場に入ると、日曜日ということもあってかかなり混雑していて、ロッカーに大きな荷物を預けることはできなかった。
本展覧会に協力している京都の<清水三年坂美術館>へは、京都旅行の際に一度だけ立ち寄った。当館の所蔵作品の何点かは過去の展覧会で見ていると思う。
展示室1
スタートは並河靖之作【花文飾り壺】、漆黒に藤や菊があしらわれた、並河らしい七宝だった。最初から御贔屓の作品が登場して幸先が良い。
【自在海老】の山崎南海、【四季草花蒔絵提箪笥】の赤塚自得、【花見図花瓶】の錦光山、【花鳥図香炉】の鹿島一谷(二代)は、いずれも初めて聞く名だった。
【羊】の石川光明と【蓮葉に蛙皿】の正阿弥勝義の作品には過去の展覧会で対面済み、本日の再会は殊更に嬉しかった。
もう一人のナミカワこと濤川惣助の【藤図花瓶】は、グレー地に藤の白い花びらがあの無線七宝で完璧に表現されている。有線の青い花びらとの対比も見事で、実に美しく心洗われる名品だった。
展示室2
視界に、本日の最大の目玉作品が入ってくる。
安藤緑山作【竹の子、梅】はテレビ番組でも紹介された牙彫・木彫の逸品、多くの人が食い入るように見入っている。毎度のことながら、作品の素晴らしさは自分の拙い文章では表現できない、ご自身で見ていただきたいとしか記せない。何時間見ても見飽きないだろう。竹の子の皮の毛先に梅の葉、人間技とは思えない完璧な造形に感嘆させられた。
展示室3 壁面
このコーナーに展示されているのは複数の【刺繍絵画】、これを針と糸で表現した技には驚嘆の一言しかない。
展示室4
大きな展示室に相応しく、展示もバラエティーに富んでいた。刺繍絵画、七宝、金工、牙彫・木彫、お馴染みの芸術家、初めて知る人、かなり混んでいたので比較的人垣が少ない箇所から見ていった。
この展示室にも並河靖之の作品があり大感激、【桜蝶図平皿】とは再会となる。濤川惣助の作品も出展されていた。どちらか選べと言われれば並河の有線七宝の方がお気に入りだが、絵画と見まごうばかりの濤川の無線七宝もとても好きである。【月下牡丹に鳥兜図香合】はモチーフも私好みだった。林小伝治の【四季草花図花瓶】はタイトルのとおり琳派絵画を彷彿とさせる七宝だった。並河らと同時期にその名を知った安藤重兵衛の作品もあった。
金工でもお馴染みの面々が見られて大感激、海野勝珉作【花鳥図対花瓶】【蘭陵王】は圧巻、正阿弥勝義【群鶏図香炉】【麟鳳亀龍香炉】は小ぶりながら精緻な造形に魅了された。
竹内栖鳳が下絵を描いた【刺繍絵画】は多分以前に見ていると思う。
中央特設ケースには、安藤録山の牙彫・木彫作品が展示されていた。本物と見まごうばかりの完璧な彫技と彩色には言葉が出ない。展示作品の周囲を何度も廻り、繰り返し繰り返し見た。本日対面した録山の作品はどれも素晴らしく、強いインパクトを受けた。最大の目玉は展示室2の【竹の子、梅】だが、個人的にはこのコーナーの【蜜柑】の方により深い感銘を受けた。知らずにそこに置かれていたら、迷わず手を伸ばしてしまうだろう。人間という生き物はここまで可能性をひめた存在なのか、文章力のない自分には感動と驚嘆という言葉でしか表せない。
これだけの仕事を残しながら、録山の生涯は謎に包まれており、生没年も定かではなく弟子の存在も確認できないという。昭和中期までは存命していたとのこと、この稀代の名工について新たな事実が解明されることに期待を寄せている。
展示室5
このコーナーには、自在や牙彫・木彫、刀装具などが展示されていた。
石川光明は【可美真手命】【老人二童】で、海野勝珉は【鳳凰花桐文銀装兵庫鎖太刀拵】で、ここでも私を魅了してくれた。
後藤一乗作【菊唐草文金太刀拵】は金の金具の繊細な細工に驚嘆させられた。
展示室6
狭い展示室は多くの人で大混雑していた。このコーナーには、鍔などの刀装具や印籠が展示されており、ここでも人垣の合間から正阿弥勝義や海野勝珉の作品を必死で見た。
大感激したのは、柴田是真の印籠に作品に対面できたこと、彼の作品にも人を惹きつけてやまないオーラがある。
展示室7
展示もフィナーレに近づく。ラストを飾るのは、漆工と薩摩、ここでも是真は私を魅了してくれた。
きらびやかな【鍔に煙管図提箪笥】(無銘、芝山細工)、川之辺一朝作【秋景蒔絵飾棚】は、世紀末のジャポニズムを今日に伝える逸品、自国の先人が西洋をうならせた妙技を持っていたことを誇りに思った。
<感想>
繰り返しになるが、帝室技芸員に代表される19世紀日本の超絶技巧には近年とみに魅せられており、その意味では本展覧会はぜひ見ておきたかった。予想にたがわず素晴らしい内容で、感動は語りつくせない。本日の展示作品の作者全員が横山大観と同様に認知・評価されるべきだとの考えを新たにした。
村田理如氏には心底感謝しており、今後もぜひコレクションの数々を見せていただきたいと切望する。将来的には平成館規模の展示会場で「帝室技芸員と明治の超絶技巧」のようなタイトルの大展覧会が開催されてほしい。
本当はもっと長時間見ていたかったが、会場内が混雑していて少々疲労感を覚え、翌日も仕事なので、涙を呑んである程度の見学で切り上げた。自分が現在のような状況に置かれていなければ、再度足を運んだかもしれない。
自室の書棚は限界に達しているが、感動を留め再勉強もしたいので、図録を購入した。
会場近くにはウィンドウショッピングに立ち寄りたい箇所がたくさんあるが、それは後日にまわすことにし、三越の地下で夕食の弁当と好きなパンを買って家路についた。
by nene_rui-morana
| 2014-08-09 13:27
| 展覧会・美術展(日本編)
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