レオナール・フジタ展 藤田嗣治 ②

Ⅲ 小さな職人たち-フランスへの讃歌
 他稿に記したように、戦後藤田は再びフランスに渡り彼の国の国籍を取得、1959年には君代夫人と共にカトリックの洗礼を受け≪レオナール・フジタ≫となった。洗礼名は敬愛するレオナルド・ダ・ヴィンチからとられた。
 この時期に描かれ、自分にとっては本展覧会で最も心に残ったのが、この最終章の作品だった。展示されていたのは、今年見た過去二度の藤田展で特に惹かれた晩年の代表作【小さな職人たち】、今回は展示作品数も多く、感動と興奮もひとしお、いくら見ても見飽きなかった。
 この作品群は、藤田が1950年代前半にスペインを旅行した時に持ち帰ったアンティークの木製扉の装飾パネル画で、ファバーボードに描かれている。会場にはそれ以前に断続的にファイバーボードに描かれていた油彩画なども展示されていた。
 現在の私は、子どもの姿をかりていささかの諷刺も交えながら、パリの下町に生きる人々の姿を生き生きと描き、日常生活の一コマを切り取ったこの作品に、心底魅了されている。登場人物の服装から、描かれているのはおそらく藤田が初めて渡航したより少し前の時代だろうが、藤田が最初の絶頂期を迎えていた1920年代のパリにはまだ少しは面影が残っていたのだろう。それぞれの職業の特徴を性格に捉え、道具も加え、シチュエーションも完璧、描かれている子どもたちはお世辞にも愛らしいとはいえないが、本当に見ていて楽しく、今や最高に好きな藤田作品となった。
 どれもそれぞれ良さがあり、その全てを書くことは不可能であるが、【指物師】【仕立屋】【配管工】【家具師】【ポスター貼り】【写真屋】などが気に入った。とりわけ心に残ったのは【監視員】、主役の少年は『モナ・リザ』の前で居眠りしている。小品だが藤田による『モナ・リザ』の模写という点でも注目に値するし、20世紀を代表する芸術家も一般市民である我々と同様にこの名画を愛していたことが確認できたことも自分には嬉しかった。


●フジタと二人の写真家-土門拳と阿部徹雄
 本展覧会では藤田の作品とあわせて、二人の写真家が藤田を被写体として撮影した写真が展示されており、生の藤田に触れることができたように感じている。
 一人はしばしば登場してきた土門拳、中心は1941年に麹町の藤田のアトリエ(後に戦災で焼失)で撮影された写真、絵画やデッサンを制作する他、ミシンを踏む姿なども撮影されている。
 もう一人は戦時下に広州で藤田の案内役となり、戦後パリの藤田のもとを訪れその姿を撮影した阿部徹雄、この人の名前は今回が初見、あわせて、戦争画を描いていた時期の藤田がノモンハンや現在のベトナムにまで赴いていたことも知った。
 両名が撮影した写真により、生の藤田嗣治をより身近に感じられたのも、本展覧会での大きな収穫だった。あわせて、年譜により藤田の一生をより詳細に知ることができた。
 額縁を制作する藤田の写真を見て、祖父のことが思い出された。土門と同じ明治42年生まれで、関東大震災と空襲を生きのび、焦土からの復興を自身で体験した祖父は、父親の代からの大工、一方で細かい作業が好きだった。自身で使う箪笥や物入れは自分で作った。自分が子どもの頃の我が家は、風呂もすのこも廃材を用いた祖父の手製、時間が経つと新しく作り直された。風呂の焚き付けはやはり廃材を割って祖父が作成したマキを利用、焚き出し口の近くには焚き付け用の細いマキと焚き込み用の太いマキとが別々の箱に分けて収められていた。昭和30年代頃は近所にも分けていたという。バスタブは途中でユニットになったが、自分が大学に入学した年に自宅を新築するまで我が家はマキ風呂だった。古稀を境に一線からは退いたが、乞われれば知人宅の修繕を請け負い、木遣で鍛えた喉で三味線や民謡の出稽古もしていた。大きな天災・人災を生き抜いた体は強靭で、70歳を過ぎても民家の屋根に上がった。晩年には趣味で五重塔を制作し、やはり手製のガラスケースと共に地元の公民館と菩提寺に寄贈した。


≪感想≫
 かなり以前から藤田嗣治は好きだったが、その作品に触れる機会は多くはなかった。数年前は心待ちにしていた展覧会を直前に体調を崩し断念した。
 それだけに、2013年は複数の展覧会で多くの藤田作品に接することができ、これまで知らなかった一面にも触れて、自分にとってき大変嬉しい年だった。
 どの作品も心に残ったが、老境に入って描いた【小さな職人たち】と【しがない職業と少ない稼ぎ】は特に気に入り、この作品を見ることができて本当に幸運だと思っている。
 本日も閉館まで館内にとどまり、魅惑の藤田ワールドにひたっていたかったが、体調も良くなく仕事もあるので、後ろ髪をひかれつつ、いつの日か再会が実現することを祈って作品群
にしばしの別れを告げた。
 本展覧会の図録は装丁も小さく収録作品や解説も充実していたので、迷わず購入、折に触れて紐解き感動を呼び起こしたいと思う。

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by nene_rui-morana | 2014-01-13 14:17 | 旧展覧会・美術展(西洋編) | Comments(0)

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