夜明けまえ-知られざる日本写真開拓使-北海道・東北編

f0148563_211318100.jpg[見学日] 平成25年3月28日(木)

[会 場] 東京都写真美術館


 数年来、足を運ぶのが恒例となっている標記展覧会、今年も会期が告知された時点で、迷わず前後期見学することを決心した。前期は年度の切り替えと重なりスケジュール調整が容易ではなかったが、何とか時間が確保できた。
 なお、本展覧会のチケットは六本木の金券ショップで購入した。


●であい
 写真のスライドショーに迎えられて会場に入る。
 まず目に入ったのはナダールが撮影した第2回遣欧使節の写真、振り向くとケースの中にはペリーの『日本遠征記』、いずれも過去に見たことがある。【ポールナダールと遣欧使節】に写っている少年は、ナダールの息子だろうか。
 制作者不詳の【林儀助像】は、元治元(1864)年頃に撮影された写真をデジタル化したものとのことだった。





●まなび
 次のコーナーには、幕末から明治中期にかけて撮影された、北海道・東北地方の機関が所有する写真が展示されていた。
 まず注目したのは関政民撮影と伝わる【(第15代南部藩主 南部利剛)】、他にも正室・明子や子どもと写った写真が見られた。

 前半部分の写真を多く撮影した田本研造(1831年~1912年)は元々は医師だったが、凍傷で右足を失い、写真師に転向したという。大きなハンディを負ったが80歳過ぎまで長生きし、明治初期から中期にかけての貴重な北海道の姿を写真の残してくれた。
 【徳川幕府脱走兵之士】は函館戦争の脱走兵で、名前も分かっているという。【五稜郭伐氷図】などもあった。【札幌風景】は、(明治5年札幌創成川の東部/明治5年札幌西南部/明治44年現今札幌市街全景)という副題のとおり、田本が撮影した明治5年と撮影者不明の明治44年の札幌の様子を伝えている。似たような江戸のパノラマ写真を思い出し、印象深い。【(函館のパノラマ)】も同様だった。
 本日の展示はレプリカだが、ポスターにも用いられたあの有名な【土方歳三像】も田本撮影ではと言われている。他にも【総裁 榎本釜次郎『武揚』 海軍副総裁】が展示されていた。
田本の写真は裏面のデザインもバラエティーに富んでいて、漢字とローマ字が併記されている。一部には箱書きも見られ、納品袋も残っている。

 明治初年に撮影された【函館市内】や【函館港】を見て、黒船来航後いち早く開港しただけあって、この頃には函館はけっこう開けていたのだなと感じた。家もたくさん建っており、一見すれば現在の地方都市とさほど変わらない。

 歩みを進めると、山形で活躍した菊地新学(1832年~1915年)の写真が登場する。この人も80代まで生きた。瀟洒でモダンな建物が写されている。枠外に書かれたタイトルは、後世の人間にはありがたい。
 【済生館】は霞城公園内に『山形市郷土館』として残っているという。遥かなる昔にこの地を旅した時、立ち寄っているかもしれない。

 当館の過去の展覧会やフロアーレクチャーで、初期写真と浮世絵との共通点について触れた記憶があるが、今回もそれを感じた。


●ひろがり
 このコーナーのスタートは内田九一の写真、多くはスタジオで撮影されたものだが、彼の写真を一関や函館、松前の図書館や博物館が所有していた事実に、初めて触れた。

 次いで、本ブログの記事に何件かアクセスしていただいた横山松三郎の写真を展示、横山の写真の数はかなり多かった。その多くは、おそらく過去にお目見えしていると思う。

 佐久間範造が撮影した【第二機関車弁慶号試運転】他の初期鉄道写真は、鉄道ファンも見たら喜ぶだろう。

 武林盛一は本日初めて聞く名だが、北海道開拓使や屯田兵を写した写真は心に残った。
三島常磐や照井泰四郎らも名前は知らなかったが、ケースに陳列されていた撮影写真は心に響いた。
井田[イ孝]吉は田本の弟子だという。

 壁面のスクリーンにリレー放映されていた遠藤陸郎の【千島探検諸島実景】は、自分にとって本日最高の鑑賞だったと感じている。現在は訪れることが難しい千島の明治中期の貴重な姿を伝える作品、流氷、荒れた海に入る人々、豪雪に埋もれた民家、迫力感と臨場感あふれる作品の数々に興奮は最高潮に達した。作品数は膨大で、全部見られたか否か確信がもてなかったので、後期は時間的余裕をもって来場し、じっくり鑑賞することを心に決めた。

 日下部金兵衛(1841年~1934年)の名は、過去に接した記憶がある。九一のような早世の逸材もいる一方で、本日の作品の制作者の中には長寿に恵まれた人が何人かみられた。明治時代の日本人の平均寿命は40数年だったと何かの本で読んだが、日下部はその倍の年月を生きた。大正時代に入ると写真師を廃業し、画家になったという。

 鈴木真一の作品も多分以前に見ている。本日は、大隈重信や、写真師・横山松三郎を撮影した写真などが展示されていた。

 石川貞吉の【明治27年石狩川上流基地】にはアイヌの姿も写っている。
 信伊奈亮正の【夕張第二斜坑】は個人的にはとても気に入った。同じ制作者の【熊送り】もこの地ならではの写真、フレームのデザインもとてもいい。
地域色あふれる写真には独特の味わいがある。

 壁面のスクリーンには【明治期肖像写真アルバム】をリレー放映、こちらもじっくり見入った。

 過去の本シリーズ展覧会には、濃尾地震など明治期に起こった天災の模様を撮影した写真が展示されていたが、今回もラストはこのジャンルの作品だった。明治21年の磐梯山噴火、明治27年の庄内自身、そして明治29年の明治三陸津波を今日に伝える作品群は、東日本大震災後の今日見ると、殊更に胸に迫るものがあった。


≪感想≫
 見るたびに新たな発見がある本シリーズ、今回も予想にだがわず大変見応えのある内容で、受けた感銘も並々ならぬものがあった。
 今回の展示が伝える地域のうち、東北は何度か訪れたが、作品を所蔵する館はほとんど訪問しておらず、立ち寄っていたかもしれないが展示写真を見た記憶がない。北海道は一度しか行っておらず、こちらも同様に所蔵館に足を運び作品を見た覚えがない。車の運転ができないことに加えて昨今のJR北海道の現状では、自身の北海道訪問はどこにも増して厳しいといえるだろう。
 それだけに、直に現地に行かれる可能性の低い地域の写真は、また一風違った味わいがあった。明治期の函館や札幌、開拓使、屯田兵、千島列島、アイヌなど、ひときわ強いインパクトが心に刻まれた。
 展示替えがされる後期は、昨年に続き、フロアレクチャーにあわせて来館しようと心に決めた。
 展示室内で足休めをしながら閲覧用の研究報告書に軽く目を通したが、掲載写真が少なく少々残念に思った。
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by nene_rui-morana | 2013-11-14 20:50 | 旧展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。


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