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酒井抱一と江戸琳派の全貌(後期)①

[見学日] 2011年11月5日(土)

[会 場] 千葉市美術館


 待望の表記展覧会、前期見学時は6時閉館で少々物足りなさを感じたので、8時まで延長している土曜日にスケジュール設定した。当日は会場に赴く道中から【夏秋草図屏風】との再会に心躍った。新京成線・千葉中央駅構内の店で昼食をとった後、徒歩で現地に向かった。
 今回の展覧会ではリピーター割引が適用された。出品目録は展示番号順ではなく章も記載されていないので、ここの部分の確認もかねて、前回以上に念入りに鑑賞した。


●一章 姫路酒井家と抱一
 最初のコーナーに展示されているのは酒井家代々の書画、【佐野の渡り図】は抱一の父・酒井忠仰が画を、母・里姫が賛をかいている。抱一は幼くしてこの両親と死別しているが、芸術の才能は血筋がなせる技だったことがうかがえる。
 抱一の兄・酒井宗雅の【夢・蝶】には画を描いた抱一の花押も見られた。展示ケースの中の宗雅の日記には抱一の幼名<栄八>の名が何箇所か見られ、兄弟愛が感じられた。
 何点か作品が展示されていた<松平乘定(のりさだ)>は名前からも血筋がうかがえるが、抱一の母方の叔父で老中まで務めた人物とのことだった。画風も後の琳派を彷彿とさせ、政治家と芸術家双方の才を持つ人物だったことがうかがえる。
 また酒井家の家臣・松下高徐が編纂した【摘古採要】には、抱一が一時住んでいた本所番場(現在の東京都墨田区)の屋敷のが収録されていて、浅草川(隅田川)をはさんだ向いに<駒形堂>がみられる。


●二章 浮世絵制作と狂歌
 大名家の御曹司・抱一は幼い頃より様々な芸術をたしなんできたが、今日知られている抱一のスタートは狂歌、絵画は浮世絵から始まった。このコーナーには寛政の改革以前の、庶民階級の狂歌仲間と活発に活動していた尻焼猿人時代の史料や、その頃描いた美人画などが展示されていた。
 解説には、四方赤良・宿屋飯盛・喜多川歌麿・等等、そうそうたる面々が名を連ねている。これら当代一流の文化人との交流が抱一の芸術に磨きをかけ、後に幾多の傑作を生み出す感性の下地作りになったのは間違いない。
 絵草子の類にも最近とみに惹かれているのでこのコーナーの展示も心に残ったが、特に印象的だったのは【手拭合】、当代文化人が紙上で手拭いのデザインを競う趣向の本で、抱一は鷹を描いている。画はかの山東京伝、歴史の授業では戯作者としてしか触れられないが、最近様々な展覧会で絵師として作品や硬派?な著作を目にし、その多才ぶりに俄然注目している。今後ますます、目が離せない存在となりそうな気がした。


●三章 光琳画風への傾倒
●四章 江戸琳派の確立
●六章 江戸文化の中の抱一
 * 当日の記録と図録を照合すると、四章と六章が入れ替わっており、展示室の関係かもしれません。また記録では六章は7階となっていますが、これは誤記で8階だったような気がします。この3章についてはどの作品がどのコーナーという明確な区別がつけられないので、まとめて記載します。

 いよいよ抱一らしい?作品の登場、今回は展示数も多く、興奮と感動は並々ではない。10余年前に抱一のファンになって以来、多くの展覧会に足を運んで様々な抱一作品を見てきたが、今回ほど大規模かつ多くの作品が一堂に会したことはなく、興奮と感動もひとしおだった。とりわけ今回は、美術書などにも紹介されていない作品も多く、抱一の新たな一面に触れたように思う。
 【月次図】は簡素な画風ながら後年を彷彿とさせる私好みの作品、特に【六月 団扇に夕顔図】【九月 墨菊図】が気に入った。
 今日にも伝わる亀戸天神の神事を描いた【鷽替画賛】や、馴染みの吉原遊郭の主人をユーモラスに描いた【大文字屋市兵衛図】には、この日も目がいった。
 【梅屋花品】は著者・佐原鞠塢が向島に新梅屋敷を開設して植えた梅の品種を記したもの、抱一は<百花園>の命名者ともいわれ挿絵を描いている。
 【播州室津明神々事棹歌之遊女行列図】は室津・賀茂神社の<小五月祭>の様子を描いたもので、姫路観光の最終日に室津まで足をのばした時のことが懐かしく思い出された。個性的な落款も印象的だった。なお印からこの作品の所有者は【甲子夜話】の作者・松浦静山だったことが分かる。解説によると静山は抱一よりわずか一歳年上、生活していた平戸藩邸があったのは東京スカイツリーで沸いている現在の墨田区、雨華庵他の抱一邸からも遠くなく、両名は面識があった可能性もある。
 【四季草花金銀泥下絵和歌巻】を見て、多くの人は光悦と宗達のコラボ作品を連想しただろう。
 本日は【光琳百図】と、オリジナルである尾形光琳の【飛鴨図】をあわせて鑑賞することができた。
 六曲一双の【四季花鳥図屏風】(陽明文庫蔵)は後期展示の目玉、鮮やかな金地に上等な絵具で描かれた、眩いばかりに豪華で華やかな作品、フィレンツェで見たやはり大好きなボッティチェリの【春】が思い出された。琳派モチーフの集大成ともいえる画題は私好み、特に雪の表現がたまらない。感激で言葉を失いながらしばし見とれた。
 歩みを進め、いよいよ待望の作品と感動の再会、【夏秋草図屏風】とその草稿に関しては、表現すべき言葉が見当たらない。この作品に関しては多くの解説もあり、感想については筆力のある方の別のブログにお任せして、ここには感動で胸がふるえたとだけ記したい。
 抱一作品の中では最高に好きな【十二ケ月花鳥図】(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)十二幅とも感激の再会、この作品が展示されている8階ラストの小展示室のベンチでしばし足休めしながら、「いつまでもこうしていたい。このまま時間が止まってほしい。」と真剣に思いながら、名画が放つオーラに酔いしれた。
by nene_rui-morana | 2011-12-01 22:17 | 酒井抱一生誕250年 | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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