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破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期①

[副 題] 特別展 没後150年記念

[見学日] 2011年7月9日(土)

[会 場] 太田記念美術館


 当初は一度行けばいいかと思っていた表記展覧会、しかし大幅な展示替えがあると知り、可能な限りの数を見たいので、急遽予定を入れた。
 当日は印刷博物館で空海の展覧会を見た後、タクシーで地下鉄・九段下駅に行き、そこから半蔵門線で会場に向かった。
 受付で展示リストをいただくと、まずは後期のみ展示作品をチェックし、これらを特に入念に見た。


●<遊>戯画・遊画
 前期は勇壮な武者絵が飾られていた1階は、ユーモラスな戯画・遊画に変わっていた。しかしこのジャンルも国芳の代表作、【みかけハこハゐがとんだいゝ人だ】など、国芳といわれてすぐに頭に浮かぶ作品が多数展示されていた。
 続いては、猫をテーマにした作品のオンパレード、国芳は大の猫好きで飼い猫の仏壇や位牌・過去帳まで作ったそうで、作品の中でも猫は重要なモチーフとなっている。【猫の当て字】では猫を複数組み合わせて<ふぐ><かつを>と描いている。【流行猫の曲手まり】【流行猫の狂言づくし】は猫を擬人化して当時流行したエンターテイメントを表現している。≪曲手まり≫では「はしご登り」などの曲芸の様子を描く一方、猫たちの袴の柄が「小判」「するめ」など猫の好物なのも、猫好き国芳の真骨頂が表れている。一方で、前期の稿では記さなかったが≪狂言≫の方に描かれている猫は本展覧会の展示解説に用いられており、裃は<猫に小判>を暗示する小判模様、黒紋付の紋は猫の足跡というのも洒落ている。笑い、怒り、踊り、楽器を奏で、国芳が描く擬人化された猫たちはどれも微笑ましい。雰囲気も生き生きとして、【猫のすゞみ】では、芸者の艶めかしさ、旦那の狡猾さまで伝わってくる。

 2階の展示室も、展示の中心は戯画・遊画で、大変楽しくまた興味深い内容だった。幕末の天保の改革で大いに制約を受けたが、国芳は持前の反骨精神でたくましく時代を生きぬき、今日に残る作品を生み出した。
 役者絵を描くことが禁じられたので、【其俤手あそびづくし】では子供のおもちゃを、【魚の心】では魚の顔を、役者の顔に似せて描いた。【亀喜妙々】は顔は似顔絵で甲羅には家紋が描かれている。【当ル奉納顔お賀久面】は面の似顔絵、こちらも私好みの多彩かつ楽しい逸品だった。落書き風に描いた【荷宝蔵壁のむだ書】も国芳の代表作としてよく紹介されている。【道外見富利十二支】は十二支に擬した役者で当時流行の御座敷芸の様子を伝える。
 【流光雷づくし】は雷らしく≪流光≫とヒネりをきかしている。
 【狸のうらない/狸のかんばん】に始まるシリーズは、展覧会はこの類はなかなか見られないと思うので、貴重な経験?かもしれない。続くシリーズに描かれている福禄寿の頭が何を暗示しているのかも、一目瞭然だろう。

 本日、2階の展示を見ているうちに、私の中には言い知れぬ興奮と感動がこみあげ、みるみるそれが大きくなり、途中で展示作品の感想をいちいち記すことを止めてしまった。次々と目に入る展示作品がどれも心に残り、とてもすべての感想は記せない。それほど本日の展示作品はすべてが心に残る素晴らしいものだった。もちろんこれまでにも、見た作品のすべてを素晴らしいと感じる展覧会は何度もあったが、本日受けた衝撃と感動はまったく異質の強烈なものであり、展示室を何度も廻って夢中で見ていった。毎度お馴染みの「ご自身の目で直接見ていただかなければ、自分の拙い文章力では作品の素晴らしさは到底伝えられない。」という感想を殊更に強く感じた。わずか10数分の間に、国芳は私の中で一気に頂上近くまで上り詰めた。今後は兄弟子の国貞と同様、彼の作品も俄然注目していくことになるだろう。
 来館時は本展覧会の図録を購入する予定はなかったが、ベンチで足休めしながら対面に展示された【江戸勝景 中洲より三津また永代ばしを見る図】を眺めるうちに、空に舞う数々の多彩な凧に完全にノックアウトされてしまい、帰宅後にこの作品その他の展示を見られない生活には到底耐えられそうもなく、帰りがけに購入した。


●<爽>美人画・風俗画
 このコーナーも国芳の真髄が堪能できる逸品揃いだった。
 歌川派らしい美人絵を展示、国芳の美人画は国貞ほどは妖艶ではなく、大人しい印象を受けた。大判錦絵三枚続の【季寄時計年中行事 申刻 霜月酉ノまちのにぎわひ】はその名のとおり、今日に伝わる浅草・鷲神社の酉の市を描いたもの、女性が持つ熊手と熊手型の簪が印象的だった。どしゃぶりの通り雨を描いた【暑中の夕立】にも魅せられた。【縞揃女弁慶 勧進帳】の女性の着物は弁慶縞、<天保十五年甲辰暦>(この表現も実に心憎い)を読む姿が安宅の関のシーンを暗示しているという。


●<憧>洋風画
 地下の展示室には、国芳作品と彼が参考にしたと思われる【東西海陸紀行】などのが並列展示され、一見純和風と思われる国芳の作品も洋画の影響を受けていることが分かった。
 例えば【東都名所 浅草今戸】は【東西海陸紀行】の【STEEN BAKKERY】(煉瓦焼き場)という作品からヒントを得ている。役者絵のポーズや風景画のアングルなどにも、参考にした洋画が推定できるものがある。もちろん単に模倣するだけでなく、国芳ならではのアレンジがあり、【和藤内虎狩之図】は木の描線を生かす一方、雪や人物を加えて加藤清正の虎退治のシーンを描いている。
 この【東都名所】シリーズも、国芳が生きた時代の江戸の様子がうかがえる逸品、【佃島】は橋桁の間から佃島を覗く構図が斬新で、川面に浮かぶ西瓜やゴミなども生活味が感じられる。【東三ツ股の図】は、「江戸時代にも東京スカイツリーか?」と新聞に紹介された塔が描かれている。これは井戸を掘るための櫓らしい。
 その他でも、【東都冨士見三十六景 新大はし橋下の眺望】の、橋桁と船と遠方の富士と取り合わせが実にいい。


 この日はいつにも増して、3つの展示室を何度も廻り、閉館ギリギリまで展示作品を繰り返し念入りに見た。会場で体感した興奮と感動は、以前≪写楽展≫で国貞の楽屋絵を見た時に匹敵する。
 国芳の浮世絵は文句なしに素晴らしい。独壇場ともいえる武者絵、臨場感あふれるダイナミックな行事絵、細やかな美人絵、生き生きとした子供たち、すべてに魅了された。「漫画の元祖」といわれるに相応しく、いくら見ても見飽きず、掛け値なしに楽しめる。江戸の庶民と同じ笑いを体感させてもらった。
 アンケートには匿名で「とても楽しく見させていただきました。国芳さん最高!」と書かせていただいた。
 今後は北斎や国貞と同様に、国芳作品を求めて展覧会に足を運ぶことになるだろう。その意味でも今回は、自分にとっては特に心に残る、記念すべき展覧会だったと思う。
by nene_rui-morana | 2011-09-06 20:09 | 旧展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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