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ボストン美術館と浮世絵 ②

 ボストン美術館(以下はもMFAと略)に関する解説は、自分にとっては大変興味深い内容で、特に熱心に聴き入った。

●MFAは、1870年に創立し、アメリカ建国100年目にあたる1876年に開館しました。この頃はまさに「博物館の時代」といえます。
 ボストン美術館は地元市民の手で作られた美術館で、世界の中では若いアメリカという国にあって、外国文化に対する真摯な姿勢を形にした地元有志の慧眼には敬服させられます。

●MFAの日本美術コレクションは海外最大級で、内容も多彩で優品が揃っている。私が大好きな仏師・快慶の【弥勒菩薩立像】の他、【吉備大臣入唐絵巻】【平治物語絵巻】など国内にあれば間違いなく国宝に指定されるであろう逸品もある。これらの名品が海外にあるのは確かに残念ですが、一方で私は美術品には「もの言わぬ美の外交官」というべき役割もあると思っています。名美術品が国外にあることにより、その地に与える影響や日本文化に関する触発は極めて大きい。美術品が在外にあることにも大いに意義があると感じます。

●MFAの日本コレクションのクオリティーが高いのは、蒐集した人物が目利き揃いだったからです。
 明治政府はお雇い外国人に対して高官並みの待遇で迎えました。当時の為替格差は、1ドル80円を割りこもうという今日のレートと比べれば、想像できないレベルだった。それだけ出さなければ日本に来てくれなかった。明治政府は国の発展のために、それだけ莫大な国費を使って外国の有識者を招聘したのです。
 そのようにして日本を訪れた外国人が、MFAの日本美術コレクションに重要な役割を果たしました。

●MFAの浮世絵コレクションは約54000点、肉筆画は700点、それらの調査が進み、先のとおりデジタル画像をパソコンで閲覧できるようになりました。実は版木数千点の調査も依頼されたのですが、この分野はあまり得意ではないので辞退させていただきました。実際、版木の調査研究は難しいです。
 140年の間にのべ200人以上から寄贈されて、このコレクションが形成されました。
 ちなみに、東京国立博物館の浮世絵のコレクションは6000点ほどです。博物館のPRにあたっては、広告代理店に頼むよりは美術品を購入する方が安上がりなのですが、なかなか購入予算はつかず、寄贈や寄託に依存している状態です。

●よく知られているように、19世紀後半に欧州で≪ジャポニズム≫が勃興しました。これは≪日本主義≫とでも訳すべきもので、文化が成熟した結果、日本に注目が集まったのです。多くの外国人が日本の美術に関心を抱き、蒐集しました。
 その一人が、大森貝塚の発見で日本でもよく知られている、かのエドワード・モースです。モースはボストンの富豪で動物学者ですが、自身も絵を描くなど芸術に造詣が深く、日本の陶磁器などを蒐集して帰国後にMFAに譲渡しました。
 このモースの知り合いだったのが、やはりボストンの名家出身だった医師のウィリアム・スタージス・ビゲローで、モースに同行して来日した彼はジャポニズムに心酔し、仏教に改宗したほどでした。ビゲローの遺骨は三井寺の法明院に分骨されています。このビゲローが1911年に寄贈したコレクションが、MFAの日本美術コレクションの中でも特に重要な位置を占めています。特に浮世絵の大半はビゲロー・コレクションです。ビゲロー・コレクションの所蔵番号は≪11.*****≫、今年はまさに100年目の記念すべき年です。彼は浮世絵をまとめ買いしたようで、実はコレクションの中には触りたくないような粗悪品も含まれています。


≪MC≫
 自国最大の博物館の9倍もの浮世絵コレクションが外国にあるという事実には、さすがに驚かされた。残念と思う反面、19世紀にそれだけ日本の美術が外国で高い評価を得ていたことは、それはそれで嬉しい。
 MFAのコレクションにかのモースが関わっていたことなど、未知の事実をいろいろ話していただき、大いに感銘を受けた。
 開国後に来日した外国人の中には日本という国に関して良い印象を持った人が多いが、ジャポニズムも含めて、19世紀日本の美術が外国で高く評価され、それが世界屈指の美術館のコレクションやその後の美術界に大きな影響を与えたことは、日本人として誇りに思う。
by nene_rui-morana | 2011-07-09 22:38 | 講演会・講座(含 回想) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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