2011年 04月 29日
役者に首ったけ!芝居絵を楽しむツボ ②
他にも、役者が江戸と上方を行き来したことや、芝居小屋火災時や若手修行に使われた[芝居地]の存在など、新たに知ったことも多く、本企画展は自分には大変意義のあるものだったと実感する。【役者地顔道中】(豊国筆)は旅姿の役者が描かれているが、幕府が移動に目を光らせていたため当時や寺社参拝を名目に地方に赴いたことを物語っているという。行く先々ではもちろん、その地の顔役が有力なパトロンとなった。
あわせて、歌舞伎興行と浮世絵との切っても切り離せない関係も、展示を通じて体感できた。今日もその名を伝える多くの花形役者の華やかな姿を描いた役者絵はもちろん、看板、広告、ポスター、パンフレット、プログラム、プロマイド、写真集、スターグッズ、等等、浮世絵は芝居興行に関して今日に通じる重要な役割を果たしたことが、本展覧会で再確認できた。絵師同志も腕を競い、豊国のような人気絵師には注文が殺到したという。大坂では同じ絵でも絵の具や刷りの違う「上摺」「並摺」の2つのパターンが購買層の懐具合に応じて用意されたところなども、今日に通じる地域性を感じる興味深いエピソードだった。
今回はまた、[有卦絵]など未知の作品にも触れられた。
本展覧会を見て、展示作品が描かれた時代と今日とに多くの共通点が見出せることに、強いインパクトを受けた。娯楽が広く大衆のものとなった江戸末期は、ある意味現代社会の先駆けといえるのかもしれない。
このことを示す作品をすべてここに記すことは不可能だが、役者を描いた[団扇絵]は今日のコンサート会場の定番グッズのご先祖?である。【独息子に嫁八人】(歌川国芳筆)には八代目団十郎とその追っかけの様々な年齢層の女性8人が描かれているが、その様子は韓流スターとそのファンそのものである。役者が好んだ衣装や小道具も人々に愛用された。【中村鶴助 俳名芝賞】は鏡に映る姿を描いた変わり種でモデルは三代目歌右衛門の養子とのことだが、作者の[寿好堂社]はいわゆる贔屓集団、当時もファンクラブやサークルが自費出版的活動を行っていたことを物語る例といえる。
同時に、展示が伝える史実にも、現代の芸能界と相通じるものがあった。三代目尾上菊五郎が市川家代々の十八番[助六]を無断で演じ七代目団十郎と不仲になったこと、両名の喧嘩を先述の金主・大久保今助があおり客寄せに利用したというエピソードなどには、注目させられた。この七代目団十郎は人気と名声をほしいままにし、豪邸にあやかって「木場の親玉」と呼ばれるほど派手な私生活を幕府にとがめられた。ある意味男として人生の絶頂を極めたが、美貌で人気を博していた跡取りの八代目を自殺により失うという不幸も味わった。会場にはこの八代目の追悼絵も展示されていた。
今回の展覧会は浮世絵の醍醐味を堪能できる素晴らしい内容で、ますますその魅力にとりつかれている。今後もさらに、このジャンルをマイペースで追求していきたい。
できれば関連講演会もあわせて聴講したかったのだが、こちらは叶わなかった。多くの方が避難所生活をされている今、展覧会見学ができる自分は極めて幸運であると実感している。今回の感動を原動力に日々の仕事に励み、職場を通じて被災地復興にできる限りの支援をしていきたいと思う。
館を出た時はかなりの空腹感を覚えていたが、近くのレストランが地震で臨時休業していたため、タクシーで次の目的地・恵比寿ガーデンプレイスに移動してそちらで昼食をいただいた。
by nene_rui-morana
| 2011-04-29 18:12
| 旧展覧会・美術展(日本編)
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