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仙厓  禅とユーモア

[副 題] 生誕260年

[見学日] 2010年9月28日(火)

[会 場] 出水美術館

 前回当館を訪れた際に館内でチラシを入手、最近仙厓にはとみに惹かれているので、ぜひ見に行こうと決心した。
 当日は午前中に江戸東京博物館の特別展を見た後、JR線で丸の内へと向かった。


《第一章 禅僧仙厓の生涯-仙厓略伝》
 仙厓について知ったのは比較的最近のことなので、その生涯については本展示により初めて認知したことも多い。住職となった博多の聖福寺は、多分10数年前に現地を旅した時に訪れたと思うが、この時は仙厓を意識することはなかった。
 このコーナーで心に残った作品は、綿密に描かれた【野狐禅画賛】と、自身の姿を表現したであろう【行脚僧画賛】、他に自作の七言詩も展示されていた。


《第二章 画賛と墨跡にみる禅の教え-禅画と一行書》
 動物が、諸仏が、あのユーモアあふれる独特のタッチで描き分けられ、見ているだけでも楽しく心が温かくなる。
 心に残った【南泉斬猫画賛】は以前に一度見ているような気もするが、あるいは別の絵師の同題作品だったのかもしれない。
 他では【臨済栽松画賛】が印象的だった。
 有名な【○△□】や、一行書数点も展示されていた。
 【達磨画賛】は、やはり私が好きな白隠の作品と似ているような気がした。また、求めに応じて気楽にさらさら描いたのであろう仙厓の作品は、やはり大好きな河鍋暁斎の絵日記とも共通するものを感じた。


《第三章 布袋十二態度-布袋の姿をかりた仙厓の思い》
 【七福神画賛】は、一般にも親しみ深い七福神を独特の画風で描いていた。「七福を一福にして大福茶」という句も実にいい。暁斎描く七福神や絵日記を彷彿とさせる。
 布袋は仙厓が特に熱意をこめたモチーフで、このコーナーには【布袋画賛】というタイトルの画が何点も展示されていて、順番に見ていくと彼の画風の変遷が手にとるように分かった。初期の頃は意外なほど正統派?の作品で入念なポートレートといった画風、これだけ見たら仙厓の作品とは分からないだろう。仙厓といえば、ややもすれば子供っぽい作品とも見なされそうな作風が特徴だが、卓越した画才の持ち主であったことがうかがえた。そういえば、カンディンスキーもビカソも、初期の頃には写真とみまごうばかりの写実的な肖像画を描いている。
 後年の作品では、布袋は中年腹の愛嬌のあるおじさんとして描かれ、見ていて心があたたまる。ポスターにも用いられている一品はあくびをしながらノヒをしている様子で、手にした団扇や足の裏の表現も印象的だった。


《第四章 仙厓と愉快な仲間たち-ご隠居様は人気者》
 隠居後の仙厓と周辺の人々とのあたたかい交流が、展示作品から伝わってくる。
 【親子虎画賛】の虎は、猫のようにユーモラスだった。
 【米屋甚太郎画賛・北船米屋画賛】は仙厓が関わりをもった人物の追悼のため描かれもので、追記は弟子の湛元で、彼は仙厓の後継者だったが不祥事を起こしたためやむなく住職にカムバックしたと会場内の展示に書かれていた。
 【自画像画賛】と【烏鴦争局(囲碁)画賛】は、仙厓の日常生活を伝える作品である。


《第五章 画賛にあらわされた仙厓の心-厳しさをユーモアにつつんで》
 ひたすら楽しく心あたたまる仙厓の作品、しかし底辺には厳しい禅の精神と仙厓の苦悩が隠されていることを実感させられたコーナーだった。
 【韓信股潜画賛】は、有名な逸話になぞらえて、当時の町人に対する武士の横暴さを表しているという。
 【尾上心七七変化画賛】は当時人気を博した地方興行を描いているが、主役の名前の本来の字は[新七]、さらに江戸は[穢土]と書かれ、暗に仏教の教えを説いている。今日の新聞の風刺漫画を思わせた。
 【切縄画賛】は縄を蛇に間違えたことになぞらえて、先入観・偏見に対する警告を発しているように思える。
 【さじかげん画賛】には[生かそふと ころそふと]という痛烈なパロディが添えられていた。【堪忍の歌】というタイトルの作品もあった。
 一方で、仙厓独特のほのぼのとした作品も見られた。【秋月画賛】は子供2人の表情が心に残る。【猿猴捉月画賛】は猿の手と尾そして可愛い表情に思わず口元がほころんだ。
 また、大変見事な牡丹や朝顔の絵も展示されていた。


 昨年上野で見た[妙心寺展]で禅の芸術の魅力に触れ、大いに関心をそそられている自分には、今回の企画は実に嬉しい内容だった。ユーモアに富みほのぼのとした仙厓の作品は文句なし、癒し効果があり温かい気持ちになる。その根底には禅の精神が流れていることを今回知ったが、凡人の私にはまだその真髄を理解するまでには到らず、ひたすら楽しく鑑賞した。今後も仙厓の展覧会が開催されることがあれば必ず足を運びたい。
 閉館ギリギリまで会場内で作品に囲まれて過ごした後、ショップで記念に絵葉書等を購入し、家路についた。
by nene_rui-morana | 2010-10-16 23:36 | 旧展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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