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皇室の名宝(日本美の華)2期 正倉院宝物と書・絵巻の名品

[副 題] 御即位20年特別記念展

[見学日] 2009年11月16日(月)

[会 場] 東京国立博物館・平成館


 待望の特別展2期が12日よりスタートした。会期は長くないので、過去に経験した急病等のリスクを考えると、なるべく早めに一度行っておきたいと思い、16日の月曜日、午前中で仕事を切りあげて上野に向かう。一蘭のラーメンで腹ごしらえし、徒歩で会場へ、界隈のイチョウは色づきは今ひとつだが、本館前の大イチョウなどはなかなか雄大なたたずまいを見せていた。
 月曜日の本日は休館日と思っている人がいて若干客足が鈍るのではないかと思っていたが、やはり相応の人出はあった。しかし休日に比べれば展示ケースとの距離ははるかに近いだろう。


第1章 古の美 考古遺物・法隆寺献納宝物・正倉院宝物
 展示の最初は書陵部が所蔵する石器や鏡、【直弧文鏡】【三角縁三神二獣博山炉鏡】あたりからは芸術性が感じられる。他の展示は、埴輪や壷など。
 少し足を進めると、[法隆寺献納宝物]を数点展示、【刀子】【木画箱】【賢聖瓢壷】などが心に残った。
 向かいの壁には、あの有名な【聖徳太子像】、さすがに多くの人が集まっているが、若い世代は太子がモデルの紙幣を見たことのない人も多いだろう。隣には太子筆【法華義疏】、和紙の耐久性を実感する。
 
 奥の壁から隣の部屋(前期で若冲作品が展示されていたコーナー)にかけて、本特別展の目玉、正倉院宝物がずらりと並び、興奮に胸が高鳴る。どれも素晴らしい作品ばかりで、とりわけ心に残った作品をあげても、以下のようにたくさんになってしまう。

【杜家立成】
 光明皇后の直筆、【楽毅論】が有名だが他にも大作が残されていると知った。豪胆な正確がうかがえる。

【螺鈿紫檀阮咸】、 
 何といっても本特別展の圧巻、天平の息吹きを現在に伝える華やかな逸品、展示ケースの周囲を何度も廻り、入念に見た。

【鳥毛篆書屏風】
 その名のとおり、かの【鳥毛立女図屏風】を思わせる作品、篆書部分にキジやヤマドリの羽毛が使われているという。

【花氈】
 1300年の年月が感じられない。

【銀香炉】
 こちらも1300年前のものとは思えないほど斬新でモダンな逸品、現代の調度としても充分に通用する格調高さがある。

【人勝残欠雑帳】
 小さな童子や動物の彩色、アシギヌに墨書きした樹木が、アップリケのようで可愛いらしい。

【屏風花氈等帳】
 20余年ぶりの再会、後に反乱を起こした藤原仲麻呂などの署名が見られ、「古代」を感じられる史料である。

【螺鈿箱】
 「天平」を感じさせる華やかな作品、細部まで造詣が味わい深い。

【平螺鈿背円鏡】
 こちらも大変素晴らしい逸品で、しばし見入った。近づいてよく見ると、鳥や獅子、犀などが左右対称に描かれている。

【黄金瑠璃鈿背十二稜鏡】
 鏡背を七宝や金板で飾る珍しい作品で、前期に並河靖之他の七宝作品に感銘を受けたばかりなので、それらの遠い先祖を見る思いがした?。

【赤漆文欟木御厨子】
 天武天皇から玄孫の孝謙天皇まで伝わったという由緒ある品で、聖武天皇の手沢品が収められていたという。


第2章 古筆と絵巻の競演
 このコーナーの前半はまさに、古典・日本史・書道の授業が現代に甦ったような空間、かつて教わった名前が次々と目に入ってきて、懐かしさと興奮を覚えた。
 【伊都内親王願文】は高校の書道の時間に「橘逸勢が6歳の内親王の手を持って書いたといわれている。」と教わった記憶があるが、ネット等で得た情報の範囲では年代面でこの説に疑問を感じた。しかし橘逸勢の筆である可能性は高いという。伊都内親王が在原業平の生母であると今回の展示で知った。
 【玉泉帖】は小野道風という稀代の能筆家が、さしずめ画家がスケッチをするような感覚で様々な書体で古典を筆写した趣味的作品という印象を受けた。制約のないおおらかさが感じられる自分好みの作品だった。【本阿弥切本古今和歌集】も道風筆といわれているが、また違った味わいがあり多才ぶりがうかがえる。
 その他にも、空海、藤原公任、藤原佐理、藤原行成、紀貫之、西行など、お馴染みの面々がずらりと並ぶ。古文書・古筆類の魅力は、授業で習った歴史上の人物がかつて存在したという当たり前の事実を実感できること、今回のように多くの名筆が一度に見られる喜びは計り知れない。個人的には行成の上品な筆跡に惹かれる。

 後半の絵巻も、大変見応えがあった。
 【春日権現絵巻】は最近宮内庁の修復が完了し公開がかなった作品、多くの人々や計画が多彩に描き分けられた素晴らしい逸品で、多くの人垣が出来ていた。個人的には家業が建設関係なので、普請に励む大工たちの姿に、ひと昔前までの職人の姿が重なり、特に心に残った。
 【蒙古襲来絵詞】日本史のテストにもよく出題される作品、20年以上の時を経て感動の再会?を果たした。今回は奮戦する竹崎季長や他の武将と並んで、蒙古軍の服装等も心に残った。
 【絵師草紙】も過去に読んだ書物のどこかで見た記憶がある。


第3章 中世から近世の宮廷美 宸翰と京都御所のしつらえ
 最初に展示されているのは藤原定家の筆により作品、ついで天皇の宸筆がずらりと並ぶ。天皇の直筆だけあって、紙や装丁も見事なものが多い。華やかな装飾料紙もあった。
 【花園院宸記】は文章の他に絵も描かれていて、院の多芸多才ぶりがうかがえる。

 足を進めると、華やかな【松竹薔薇蒔絵十種香箱】に目を奪われる。香道には接する機会が少ないので、道具一式を見られた意義は大きい。

 このコーナーのフィナーレは江戸時代の屏風が飾る。
 【扇面散屏風】(俵屋宗達筆)や【井出玉川・大井川図屏風】(狩野探幽筆)は、筆者が画才のみならず古典の教養も豊かだったことがうかがえる。
 【御即位行幸図屏風】と【寛永行幸図屏風】(狩野永納筆)は大勢の人々が多彩に描かれた私好みの作品、フィルムや写真がなかった時代は、絵画は大きなイベントの様子を伝える重要な手段であったのだろう。
 【糸桜図屏風】は、簾と枝垂桜の表現が絶妙で心憎い。


第4章 皇室に伝わる名刀
 刀に関しては造詣が深くないが、昔福岡の博物館で見た日本刀には大変感動した記憶がある(館や刀の名称は思い出せない)。今回展示では、粟田口吉光や相州正宗など、素人でも知っている名前が見られた。
 最も心に残ったのは、刀身に龍が彫刻された行光銘の【短刀】。


 本特別展も心に残る逸品が目白押しで、繰り返し何度も見学した。
 過去に正倉院展は東京と奈良で合計3度見学しているが、見る度に新たな感動を感じ、正倉院は文字通り8世紀の芸術文化の殿堂であると実感する。個人的にはやはり螺鈿や瑠璃など華やかな宝物に魅せられるが、今回も私好みの逸品がたくさん見られて本当に嬉しく思っている。

 ミュージアムショップで、絵葉書やクリアーファイルなどを記念に購入し、階下に下りる。ビデオコーナーの映像は前回に見たが、足休めもかねて再度見直した。あらためて、貴重な文化財の修復の重要性を痛感する。

 隣接するコーナーでは、「特別展関連展示」として、『正倉院宝物の模造制作活動 伝統技術の継承と保護』というタイトルで、正倉院宝物の精巧な模造品が展示されていた。世界に一つしか現存しないという【螺鈿紫檀五弦琵琶】など十数点を展示、製作者に「株式会社川島織物」という名前が見られたが前期の帝室技芸員で見た川島甚兵衛と関係があるのだろうか。このコーナーを見て、最近時々感じること、すなわち文化財の保護のために所蔵品オリジナルの展示は一部にして展示用の精巧なレプリカを利用するという展覧会のあり方も検討してもよいのではないかと思った。もちろん自分も現実至上主義だが、外国から里帰りした刷り色も鮮やかな浮世絵を見て、作品保護のためには自身の欲望は制御できると感じた次第である。

 本日はできれば特別公開している庭園も見たかったのだが、開園は午後4時までで待にあわなかった。窓から覗いた限りでは、紅葉にはまだもう少しかかりそうなので、期待をつなぎたい。
by nene_rui-morana | 2009-11-24 21:00 | 旧展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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