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皇室の名宝(日本美の華)1期 永徳、若冲から大観、松園まで

[副 題] 御即位20年特別記念展

[見学日] 2009年10月17日(土)

[会 場] 東京国立博物館・平成館

 職場の福利厚生室で本特別展のチラシを入手し、即刻行くことを決心した。
 通常上野の博物館には平日に休みをとって行くことが多いが、仕事が忙しいので今回は休日となった。
 10月17日の土曜日、国立博物館正門前に到着したのは会場5分前の午前9時25分、既に開門していて、平成館を目指す。この時点で既に大勢の人が並んでいて驚いた。10分ほどで館内に入る。
 ロッカーに荷物を預けてエスカレーターで2階に上がる。本日は後半の第2会場から先に見た。以前別の特別展で開館直後や閉館直前に体験した、空いた会場で名宝群を独占しているような快感が忘れられず、土曜の本日も平日と同じ時間に起床したのである。入場前に既に多くの人が並んでいたので今日は無理かなと思ったが、第2会場はまだ人影もまばらで、近代を代表する至宝に囲まれて至福のひと時を過ごせた。
 このようなに本日は後半から見たのだが、レポは第1会場分からまとめることにする。

第1章 近世絵画の名品
 解説文を読むと今回の展示は、永徳、若冲、抱一、北斎らの作品とのことで、胸の中は喜びと興奮でいっぱいになった。

 本日最初の作品は、海北友松筆【浜松図屏風】、愛してやまない桂離宮を飾っていたものという。
 ついで、永徳筆と伝わる作品、正面には【唐獅子図屏風】が飾られている。3年前に「巡回展はない」とのことで京都まで見にいったのたが、想定外に早く再会?を果たした。京都の時よりこの会場の方が大きく感じた。この作品はもちろん好きだが、個人的には隣に飾られた永徳の孫・常信の作品にも魅了された。北斎の[日新除魔帖]を思わせる、ユーモラスでちょっと可愛い獅子だった。
この作品の前から次の間を覘くと、遠目でも人目で若冲作品と分かる鮮やかな色彩の作品群が並び、期待と興奮で胸が高鳴った。

 最初に出迎えてくれた伊藤若冲作品は【旭日鳳凰図】、伝説の霊鳥・鳳凰をややグロテスクに描いているが、鮮やかな赤が印象的、多くの人が見入っている。この部屋はすべて若冲作品で占められ、ちょっとした「若冲展覧会」の様相を呈していた。
 多くの人垣の合間をぬって、あるいは瞬間すいた場所にもぐりこんで、最近とみに惹かれている若冲作品を夢中で鑑賞した。時間はかかったがすべての作品を最前列で見た。後方の親子連れのお母様が「私が大学時代に見た時はこんな混んでなかった。やっぱり平日に仕事を休んで来ないとダメね。○○ちゃんに付き合って来なきゃよかった。」とボヤき、お嬢さんが「でも若冲は最前列で見たいのよ。」と言うのが耳に入った。お顔までは見ていないが、そう言いつつも、お母様もまんざらではなかったのではないかと思う。
 私のお気に入りは【雪中鴛鴦図】、これと非常に良く似た同タイトルの絵を2006年の[若冲と江戸絵画]の時に感銘を受け、マグネットを購入した。

 次の間には、円山応挙、呉春らの作品が展示されていた。
 中央の展示ケースには岩佐又兵衛筆【小栗判官】、多くの人垣でなかなか見られず、後ほどすいた瞬間を見計らって部分ごとに鑑賞した。
 長澤盧雪筆【唐子睡眠図】は彼にしては珍しく愛らしい作品だった。
 谷文兆筆【虎図】は綿密に描かれた毛並が見事、水面に写る虎の顔も印象的だった。
 我が愛する酒井抱一の【花鳥十二ケ月図】の前にも多くの人垣ができていたが、何とか第一列にもぐりこみ、じっくりと見入った。今回出品されている作品は過去見ているが、格別に好きで何度見ても見飽きることはない。酒井抱一は自分にとっては最高の芸術家の一人である。抱一が描く鳥たちはどこか微笑んでいるような印象を受け、草花や小動物に対する抱一の細やかな愛情が感じられる。若冲と並んで、落款のデザインも実にいい。


第2章 近代の宮殿装飾と帝室技芸員
 第2会場の作品群の作者の大半は本日初めて聞く名前だったが、心に残った作品も多く、自分にとってはエポックメーキング的な展覧会となった。
 最初の作品は横山大観筆【御苑春雨】、後にも大観作品があった。
 心にのこった作品があまりに多くて、どうまとめていいのか分からない。他の方法が見当たらないので、多少展示の順番がずれるが、以下に箇条書きにする。

【旭日双鶴松竹梅図】 荒木寛畝・野口小蘋 筆
 上品で気高い筆致に惹かれる。

【大納言公任棒梅花図】 杉谷雪樵筆
 6曲1双の大型作品、水鳥の姿が愛らしい。裏面に酒井道一の【四季花卉図】が描かれているとのこと、名前からして琳派の画家だろうか、もしそうならぜひ見てみたい。

【赤坂離宮御苑】 高取稚成筆
 タイワンアヒルや庭木の表現が印象的だった。

【銀製百寿花瓶】 鈴木長吉作
 字体の異なる「寿」の字が100種類陽鋳、明治天皇銀婚式奉祝献上品にふさわしい作品。

【青磁鳳雲文花瓶】 諏訪蘇山(初代)作
 中国や台湾の博物館で見た青磁が思い出される。

【萬歳楽置物】 高村幸雲・山崎朝雲作
 舞人と共に、由木尾雪雄による見事な蒔絵と螺鈿の台座に心奪われる。

【古柏猴鹿之図】森寛斎筆
 毛の柔らかな表現が圧巻。

【孔雀鸚鵡図】 瀧和亭筆
 思わず息を呑むほど鮮やかで豪華な作品、孔雀と牡丹は、本特別展の複数の作品のモチーフになっている。

【夏冬山水図】【春秋山水図】 橋本雅邦筆 
 淡い色彩で四季を見事に表現している。

【石山寺蒔絵文台・硯箱】 川之邊一朝作
 伝統美の中にもモダンが感じられる拡張高い作品。

【古代鷹狩】の作者・石川光明は浅草の宮彫大工だったそうで、若き日に高村光雲と接点はあったのだろうか。
その光雲の【矮鶏置物】は、今にも動き出しそうだった。

【龍虎図】橋本雅邦筆
 淡く龍が描かれているが、虎との間の波もどこか龍を思わせる。

【官女置物】旭玉山作
 初めて見る本格的な牙彫作品、牙材をいくつも接合して衣装や帯を完璧に表現、豊かな質感にため息が出た。

【春郊鷹狩・秋庭観楓図壁掛】 川島甚兵衛(三代)作
 綴織の大作、このジャンルの作品は見る機会が少ないので、感激もひとしお、遠くから見たら絵としか思えない完成度の高い逸品。

【鳳凰高彫花盛器】 香川勝廣作
 銀製の花瓶に雌雄の鳳凰を象嵌、こちらも通常は見る機会の少ない貴重な作品。

【七宝藍地花鳥図花瓶】 七宝会社作
 七宝の大作、本特別展では他にも七宝の名品が何点か出品されていた。

【塩瀬地孔雀図友禅染掛幅】 西村總左衛門(十二代)作
 美術展では見る機会の少ない友禅染の作品
 
【雨後】 川合玉堂筆
 繊細な虹の表現にうっとり

【雪月花】 上村松園筆
 間違いなく、本特別展を代表する作品、多分、本特別展で女性一人の手によるものはこれだけなのではないか。

 先月の横浜の展覧会でファンになった並河靖之の作品も見られて大感激、本日最も心に残った作品は、並河靖之作【七宝四季花鳥図花瓶】、比較的小さな花瓶に四季の花鳥が完璧に表現されている。何度も展示ケースの場所に戻り、繰り返し鑑賞した。ひざまずいて見ると、花瓶の下部には上からの目線では見られない世界が表現されている。その姿勢でケースの回りを何周かした。周囲の何人かが私を真似て、同じ感想を持ったらしく、感嘆の声が聞かれた。
 もう一人のナミカワ、濤川惣助の作品も出品されており、無線七宝の巨匠には珍しい有線七宝の作品【七宝唐花文化盛器】もあった。
 私個人は有線七宝の方を好むが、濤川の【七宝月夜深夜図額】にはとても感動した。解説文がなければ誰がこれを七宝と思うだろうか、卓越した無線の技術で水墨画とたがわぬ完璧な表現がされている。

 日本史の授業では、幕末・明治という時代はどちらかというと暗く語られることが多い。開国後の混乱、不安定な政情と世相、貧困にあえぐ民衆、戦争による疲弊、確かにそれらは歴史的事実だろう。しかしながら一方で、江戸時代を知る明治の先人によって、今回の展示作品のような素晴らしい芸術作品が生み出されたことも、また事実である。
 本展示を見る限り、国力増強等が目的だったにせよ、明治政府が帝室技芸員という制度を設け、欧米文化におされて衰退しつつあった日本の各種伝統芸術を後援した意義は大きいと思う。今回の展示作品の中から、将来間違いなく国宝や重文が出るだろう。三の丸尚蔵館は欧米の王室にひけをとらないほどの名宝を有していると確信した。
 これを機会に、これまでほとんど注目することのなかった帝室技芸員や内国博覧会・さらには1900年のパリ万国博覧会などについて、いろいろ調べてみようと思う。あわせて、今後は三の丸尚蔵館の企画展にも足を運んでみたい。


本日はミュージアムショップで少し奮発して多めの買い物をした。絵葉書、ボールペン、ポチ袋、クリアーファイル、抱一の【花鳥十二ケ月図】のカレンダーは特に嬉しいグッズだった。腰の調子が思わしくなく重い荷物がしんどいので、昼食代を節約するかわりにセット図録を宅配で自宅に配送してもらうことにした。

 当初はこの後にもうひとつ別の展覧会に足を運ぼうかとも思っていたが、本特別展は予想以上にスケールが大きく見応えがあり、見終えた時はかなり体力を消耗して疲れていた。このまま行っても満足のいく鑑賞はできないだろうと判断し、この日は上野の駅ビル内のショップを覗いて、帰宅した。
by nene_rui-morana | 2009-11-13 22:14 | 旧展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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