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写楽と豊国 -役者絵と美人画の流れ-展 

[会 期] 2015年1月10日(土)~3月15日(日)


[会 場] 三鷹市美術ギャラリー


例によって見学後に長時間が経過したため、詳細部分は記憶が定かでないことを先ずご了承願います。


表記企画は自宅近くの公共施設内に掲示されていたポスターから知った。我が歌川国貞のルーツともいうべき展覧会なので、即座に見学を決心、幸運にもある伝手を頼って招待券を入手できた。

 会場は自宅からはけっこう遠いが、2、3度訪れている。



Ⅰ.写楽・豊国とその周辺の絵師たち

★写楽周辺の絵師

 スタートは東洲斎写楽の【三世沢村宗十郎の大岸蔵人】、その後もお馴染みの写楽作品が続く。

 次いで鳥居派の役者絵が登場、鳥居清長の【瀬川雄次郎の早の勘平】などが心に残った。

 個人的に最近注目している勝川派の浮世絵も出展、鏡に写る役者を描いた勝川春艶の【三世市川高麗蔵の志賀大七】【三世大谷鬼次の奴江戸兵衛】などは、かなりデフォルメされているが印象的な作品だった。

 サプライズは十返舎一九の画【三世市川八百蔵の八幡太郎】、一九が山東京伝のように浮世絵も描いていたことを初めて知った。写楽三期にあたる寛政6(1794)年、蔦屋に居候していたとのことだった。

 喜多川歌麿は同じタイトルの【中村富三郎】二作品が展示されていて、一枚は団扇絵だった。東洲斎写楽も同じモデルを描いている。

 【役者舞台之姿絵 きの国や】以降は、国貞の師匠・初代歌川豊国の作品が続く。【沢村宗十郎の出村新兵衛、市川八百蔵】は大変リアル、歌舞伎堂艶鏡の【三世市川八百屋蔵】と同じ人物であることは一目で分かる。







★写楽の役者絵

★お江戸の人気力士たち

 本日のもう一人の主役・写楽登場、お馴染みの役者絵に続いて、相撲絵が展示されていた。

 写楽より少し前の時期の勝川派の相撲絵も展示されていた。春章の【東・小野川、西・谷風 対戦の図】や春英の【谷風の滝の音】【雷電】などは、タイトルそのまま、今日に名を残す花形力士が登場したこの時代は相撲ブームが到来したことを物語っている。やはり春英の【大童山と金太郎】は実に可愛い、チビッ子力士として人気を集めたことは容易に想像できる。 

 無款の【大童山】は成人力士となった姿を描いた瓦版、子役タレント力士としては支持されたが力士としては大成せずに廃業、比較的早く亡くなったことを他所で知ったが、肥満が原因だったのかもしれない。


★ミスお江戸

 スタートの歌川豊春(初代豊国の師匠)の【琴碁書画・書】は鈴木春信作品のリメイク、その後も見ているだけでため息が出るような作品が続く。歌麿のお馴染みの美女の他、清長や初代豊国の美人画も展示されていた。

 歌麿の【女織蚕手業草】や豊国の【大井川渡の図】【富士山遠望姫行列】は「紅嫌い」と呼ばれる色摺法の作品、モノクロ写真のようにシックだが味わい深い。

 【大極上ふじの白酒】以降の豊国作品のモデルは、歌麿風の細面の美人に描かれている。

 【両画十二候】は豊広と豊国が分担制作した揃物、展示されている「六月」は豊広が描いている。

 【若那初衣装・丁子や錦戸】の作者・鳥文斎栄之は勘定奉行という由緒ある武家の出身、清長に私淑した。過去の展覧会でも印象的な作品を見た記憶がある。

鳥居清政の【高嶋おひさ】は歌麿作品のモデルとして有名だが、歌麿に比べてふっくらと親しみやすく描かれている。

 【六玉川之内・砧】の作者・窪俊満も、他の展覧会で見た記憶がある。

 【桜下相愛図】の作者・北尾政演は山東京伝の浮世絵師としての号、戯作者以外の顔に接し、多才ぶり感嘆させられた。日本史の授業では寛政の改革で処罰されたことしか教わらないが、もっと注目されてしかるべき人物だろう。

 葛飾北斎の【風流四季の月・なつ】も展示、この作品の落款は「春朗」である。 



Ⅱ 豊国の系譜 文化期以降-幕末まで

★役者絵

 初代豊国描くのは、お馴染みの役者の面々、過去の記憶を呼び起こしながら鑑賞した。

 【五世松本幸四郎の剣沢だん正左衛門】のモデルは、デフォルメされているが高い鼻の持ち主だったことが分かる。【七世市川団十郎の三浦荒男之助】など、強烈な個性の役者絵が続く。


 そしていよいよ、我が歌川国貞の登場、スタートは文化10(1813)年頃に描かれた【例燭曽我伊達染、三浦あら男之介、剣沢だん正左衛門】以降、師匠の初代・豊国に似た画風の作品が続く。描いたのが同時代の役者であるためかもしれない。

 【伊賀越乗掛合羽】は縦三枚続作品、上段には敵役・沢井股五郎が、中断にはその沢井の人相書きを持つ唐木が描かれている。

 【楽屋錦絵二編】十枚は本日最大のヒット、大好きな中村座の楽屋絵の各シーンを拡大して描いたような私好みの作品、「一雄斎」の署名は初見かもしれない。国貞らしく、役者の個性はもとより、団扇や台本・調度などの小道具も綿密に描かれ、当時の楽屋の様子を伝えている。「瀬川路考」はタイトルがなければ描かれているのが女形とは分からないだろう。「岩井半四郎」は背景に客席も描かれている。



★美人画

 豊国の【今やう娘七小町】シリーズは非常に艶めかしい作品、手の込んだコマ絵は弟子に模倣されたことが分かる。他所で知った歌川派のあのロゴが記されていた。

 歌川国安の【風流娘手遊】も同様だった。


 本日は、国貞の【神無月はつ雪のそうか】など、以前見た作品も展示されていた。【当世三十二相・しまひができ相】もその一つ、このシリーズは国貞作品の中でも特に好きなので、対面できたのは本当に嬉しかった。


 通常は見る機会の少ない歌川広重の人物画【東海道川尽】二作品や【雪月花の内・月の夕べ】も展示されていた。人物画にとどまっていたら広重は平凡な絵師のまま歴史に名を残すこともなかっただろうとも言われるが、私は味わい深い良い画風だと思う。背景や水の描写は「さすが広重!」と感じた。


 溪斎英泉を思わせる妖艶な美人画【風流東姿十二支】二作品の作者は二代・歌川豊国、実際にはこの人物が国貞より早く豊国を襲名したらしいが、活動期間も作品数も僅かで、国貞は自分が二代目と自称した。

 歌川国芳の【八町つゝみ夜のけい】なども展示されていた。



★役者絵

 美人画と並んで歌川派の魅力を伝える役者絵、このコーナーの作品も大変見応えがあった。

 国芳の【御贔屓握虎木下 中村歌右衛門の真柴久吉、坂東勝次郎のてる吉】は非常に印象的だった。


 【三世尾上菊五郎の那迦犀那尊者】【坂東しうかの橋本屋抱白糸】は署名のとおり、国貞が豊国を襲名した後の作品、名声も地位も確立した老年期の国貞作品は、「助手が多くを代作していた」「作風等が型にはまり濫作された」など、高い評価をしない人も多い。しかし自分は、モダンで斬新・新時代の先駆的なものを感じ、気に入っている。


 歌川派を踏襲した近代の絵師、歌川国周、落合芳幾、大蘇(月岡)芳年らの作品も展示されていた。



【感想】


 見学から長時間が経ってしまっており、細部の記憶は不明瞭になってしまったが、大好きな国貞の他、多くの歌川派の作品を見られ、大いに感激したことは間違いない。

 その後今日まで、それなりの回数の浮世絵展に足を運んだうえで今回本稿をまとめて、復習できたこと、興奮を呼び起こせたことなども、数多い。

 現在渋谷で、国芳と国貞の大規模な展覧会が開催されているが、これを機に、我が国貞と歌川派に新たな注目が集まることを願っている。

 書架のキャパは超えているが、本展覧会の図録は購入した。






by nene_rui-morana | 2016-04-30 15:35 | 展覧会・美術展(日本編) | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

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