人気ブログランキング | 話題のタグを見る

藤田嗣治 本の仕事 日本での装幀を中心に

藤田嗣治 本の仕事 日本での装幀を中心に_f0148563_20414879.jpg
  [見学日] 2013年4月28日(日)   [会 場] 千代田区立日比谷図書館文化館

   
 新聞記事で知った標記特別展、先述のとおり藤田嗣治は好きな画家なので、ぜひ見ようと思い、GWに入った直後に会場に赴いた。
藤田嗣治 本の仕事 日本での装幀を中心に_f0148563_20543661.jpg 昼過ぎに到着、当日は理想的な五月晴れで、日比谷公園内には春の花が咲き、とても爽やかだった。園内のセルフサービスのレストランで昼食をとった後、会場に入った。
 都立図書館時代にレポートや卒論でお世話になった当館、千代田区に移管されてから訪れるのは今回が二度目となる。
 * 藤田の展覧会は、日本と西洋どちらのカテゴリにアップしようか迷いましたが、本稿はタイトルに従い日本にします。


●フランス時代記憶の中の日本-記憶のなかの日本-
 スタート早々、「これぞ藤田!!」と思える作品が目に飛び込んできて、俄然興奮は高まった。タイトルは【自画像と猫】そして【女性と猫】、この作品が描かれた1920年代は≪第二のジャポニズム≫ともいうべき時代だったという。
 【海龍】はジャン・コクトーとのコラボ、このコーナーの作品を見ながら、ロートレック展の時と同様、フランス語が読めないことを残念に思った。
 彼の国に身をおきながらも、藤田は【日本昔噺】で≪羽衣≫や≪養老の滝≫など、私もかつて読んだ昔話を描いている。




●日本の文学者たちとの-交友洋行文士たちを中心に-
 本特別展のサブタイトルとなっている装幀は、藤田に関して私が初めて知ったジャンルだったが、このコーナーで紹介されている文学者との交友も同様だった。
展示されているのは、岡本かの子、川口松太郎、菊池寛、林芙美子、横光利一、佐多稲子、等等、かつて国語の授業で触れたそうそうたる面々の著作、これらの表紙や挿絵を藤田は出掛けている。特に印象に残ったのは岸田國士の【落葉日記】、本日これも含めて個人蔵の作品が数多く出展されているが、古書業界ではどれくらいの値がつくのだろうか。
展示を見ながら、藤田の多彩な人脈に驚嘆させられた。これだけでもドラマになりそうな気がする。


●戦前の雑誌の仕事
展示されているのは、藤田が表紙を描いた【婦人之友】や【婦人画報】【ホーム・ライフ】【スタイル】そして【文藝春秋】などの雑誌、これらは20年代にパリで刊行された【ヴュ】や【ヴォーグ】などの影響を受けているという。


●詩人たちとの交友
 このコーナーにも、草野心平や森三千代、西條八十など、お馴染みの名前が見られた。さり気ない藤田の線描も詩を奏でているような味わいがある。
 心に残ったのは加藤健著【詩集】、淡色の柔らかな朝顔がとても上品で優しく美しい。


●麹町区六番町の家とアトリエ (写真家 土門拳の写した藤田嗣治)
 藤田は「仕事を盗まれる」と制作中の姿をさらすことを好まなかったようだが、若き日の土門拳には心を許し、土門は藤田の姿を多くの写真に残した。土門が撮影した藤田の写真は、作品と同様、この日心に残る展示だった。酒田市の記念館をはじめ、これまで土門の写真を見る機会は多かったが、今回も土門の実力を肌で感じる思いがした。


●戦中・戦後の仕事
 藤田の戦争画について知ったのも最近のことだが、【アッツ島玉砕】のような大作の他に、【還らぬ中隊】や戦中戦後の雑誌の表紙なども手掛けていたことも、本日初めて知った。


●自著本と作品集
 私はまだほとんど読んでいないが、藤田はエッセイ等も書いており、当然ながら表紙や挿絵を自身にプロデュースした。本日はこれらの自著作品も、心に残った。
 一筆書きのような女性の横顔が表紙となった【巴里の横顔】(1929年出版)はベストセラーになったという。


●ふたたびフランスへ-戦後の豪華装幀本-
 1950年、藤田はニューヨーク経由で再びパリに渡り彼の国の国籍を取得、以後再び日本に戻ることはなかった。このコーナーには戦後間もなく刊行された【婦人公論】等の他、再渡欧後の作品を展示、この晩年の作品も個人的には非常に気に入った。円熟した藤田の描線は、フィナーレを飾るに相応しく大変見応えがあった。
 【魅せられたる河】の女性は、初期の乳白色の裸婦とは違った、しかし優雅な美しさで見る者を魅了する。【無垢の泉のための下絵】は特に印象的、【版画試作】には『天井桟敷の人々』の一節らしき描写が見られた。自画像も、エッチングが好きなので心に残った。
 マンガチックな【しがない職業と少ない稼ぎ】と【四十雀】は本日特に気に入った展示、大変楽しくいくら見ても見飽きない。前者にはコクトーも参画していた。何としても全編見たくなってしまった。

 
≪感想≫
年明けの東京国立近代美術館に続き、好きな藤田の作品を見る機会に恵まれ、大変嬉しかった。
1月に見た戦争画と同様、今回触れた装幀関係の仕事は初めて知ったが、これによりますます好きになった。
 あらためて、藤田の画風の多彩さには驚嘆させられた。さり気ない描線と細密画、古典的な正統派画風と前衛的表現、単色と彩色、人物と風景と静物、それぞれ単独で見たなら同じ人物が描いたと分かるだろうか。その画風と共に幅広い人脈も藤田の魅力のひとつ、その分野も堪能でき、自分にとっては大変意味のある内容の展覧会だった。
 冊子にまとめられた解説書もいただけて大感激、カラー写真も収められており、自分にとっては貴重な藤田研究史料となるだろう。
 今後も機会があれば、藤田の展覧会に赴きたい。
by nene_rui-morana | 2014-01-08 20:42 | Comments(0)

趣味の史跡巡り、美術展鑑賞などで得た感激・思い出を形にして残すために、本ブログを立ち上げました。心に残る過去の旅行記や美術展見学記なども、逐次アップしていきたいと思います。

by nene_rui-morana