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酒井抱一と江戸琳派の全貌(前期)②

 歩みを進めて8階最後の小さな展示室に入った瞬間、感動と興奮とで胸が一杯になる。
 展示されているのは【十二ケ月花鳥図】(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)、多くの抱一作品の中でもこれは特に大好きで、皇居東御苑を訪れた時には絵葉書を購入した。抱一生誕250年の今年、三の丸尚蔵館で公開されないかと度々HPをチェックしていたが情報がなく、残念だが年内対面は無理そうだと諦めかけていた。それだけに本日この会場で十二幅全てを見られたのは文字通りサプライズで、夢中で食い入るように見ていった。四季花鳥は自分にとっての抱一の真骨頂、とりわけこの作品は格調高い江戸琳派の金字塔、ため息が出るほど上品で美しくそして繊細、いつまでもこのまま見続けていたいと真剣に思った。個人的には【十一月 芦に白鷺図】がもっとも気に入っている。振り向く白鷺の表現が心に残る逸品である。一方で本日あらためて全幅見てみると、他の幅も全て素晴らしい。【七月 玉蜀黍朝顔に青蛙図】の葉上の蛙、【十二月 檜に啄木鳥図】の木の向こうから覗く啄木鳥、四季の移ろいや小動物に対する慈愛に満ちた抱一の視線が感じられる。


 階段を下りて7階の展示室へと向かう。 *以下に記載する作品の中には8階に展示されていたものもあるかもしれませんが、記憶が定かでないので当日のメモの順番に記します


 7階展示室の最初は、抱一が手掛けた工芸衣装の数々、敬愛した光琳作品を彷彿させる【白繻子地紅梅文様描絵小袖】に始まり、蒔絵の盆や茶箱・盃・印籠・櫛・茶器、等等、やはり雅びな抱一ワールドに陶酔した。原羊遊斎とのコラボによる蒔絵作品は数年前の≪大琳派展≫で何点か目にし、以後こちらも大ファンとなったので、本日の再会はとても嬉しい。【原羊遊斎下絵帖】も心に残る展示だった。
 あわせて、我が歌川国貞の【江戸自慢 仲の町灯籠】も展示、モデルの遊女は抱一の落款が入ったコウモリの団扇を手にしている。隣に展示され【猫と遊ぶ美人】(魚屋北渓作)の中にも「抱一」円印入りの衝立が描かれていて、馴染みの吉原で抱一ブランドが絶大な支持を得ていたことがうかがえる。
 展示室内は他に、抱一が描いた仏画が展示されていた。こちらにも四季花鳥図とは違った魅力がある。
 【隅田川窯場図屏風】は現在の台東区内にあった今戸焼の窯場を描いたもの、左双には雄大な筑波の山々と隅田川の景観をシンプルだが味わい深く描いている。近くで生活していた抱一には馴染みの風景だったのかもしれない。余談だが、抱一命名といわれる向島百花園では≪隅田川焼≫が生産されていたが、残念ながら現在では絶えてしまっている。


 展示の後半は抱一の弟子たちの作品を展示、稀代の芸術家だった抱一は後進の育成という点でも不滅の功績を残したことを体感した。
 見所はやはり一番弟子の鈴木其一、彼の名を知ってからまだ日は浅いが、その作品に接するたびに魅せられ、現在では大ファンになっている。国内に現存する作品はあまり多くないとも聞いていたが今回の展示数はこれまでの最多、師・抱一を継承しつつも独自の画風を確立した其一の世界にしばし陶酔した。居並ぶ作品群を見ていると、一部については抱一を凌駕しているのではないかと感じる。
 【夏秋渓流図屏風】と感動の再会を果たす。鮮やかな青の渓流、優雅な白百合、色づいた秋草、私の好きなモチーフが集約された珠玉の逸品である。
 他の作品もすべて心に残ったが、【群禽図】中央のユニークな梟、若冲作品を思わせる【蔬菜群虫図】などが特に気に入った。【翁図】【猩々舞図】などの能画も素晴らしく、其一はあらゆるテーマと技法をこなすオールマイティな不世出絵師だったことを再確認した。
 其一以外の弟子の作品にはこれまであまり接する機会がなかったが、本日はこの方面の展示も充実していて見応えがあった。注目したのは池田孤邨、其一と肩を並べる逸材だったと感じる。抱一が賛を書いた【墨田川遠望図】は、江戸博の特別展≪隅田川≫で扇型の落款を目にした記憶がある。


 期待にたがわぬ素晴らしい内容で、何度も7階と8階の間を往復し、繰り返し見入った。気がついたら閉館まで30分を割り大慌て、残念ながらラスト近くの弟子たちの作品をより入念に見直すことができず急ぎ足で再鑑賞した。
 正直ここまでスケールの大きな展覧会とは思っておらず、【十二ケ月花鳥図】など想定外の作品に対面できるなど、インパクトとサプライズにおいては近年稀にみる美術展だった。毎度のことながら、展示の素晴らしさにおいては自分の拙い文章力では到底表現できず、ご自身で現物か刊行された図録を見ていただきたいとしか記せない。
 【夏秋草図屏風】が展示される後期が楽しみである。
by nene_rui-morana | 2011-11-19 15:58 | 酒井抱一生誕250年 | Comments(0)

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